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第二百六十四話

 四番通りと七番通りがどうなっているのかを簡単に説明する。

 まず四番通りだが、その隣である三番通りにはドリーミィ・フロント所属のアトムたち、五番通りには元魔王の基樹が控えている。

 はっきり言って純粋な戦闘力という点においてはやばいので間に合うのだ。

 そして七番通り。

 八番通りには秀星がいるのだが、大通りを守っている者たちが気が付いているように、秀星がいる八番通りに強者が集まりつつあるので少し時間がかかる可能性がある。

 しかし、六番通りにいた宗一郎と英里が思ったより早く終わりそうなので、こちらも問題はない。


 だが、何も大通りだけを守っていればいいという話ではない。

 当然だが、大通りだけが学校に面しているというわけではないからだ。

 そのため、最初からそう言った場所を使って学校に侵入しようとしていた者たちが、何人か侵入に成功している。


「……誰か学校の敷地に入ってきてる」

「え、風香ちゃん。わかるの?」

「風を使って簡単な探知結界を作ってる。そこを誰かが通過したみたい」


 秀星たちが暴れている間に、ほとんど避難誘導は完了している。

 大型の地下シェルターが作られているので、それらを使えば生徒と教員を全員入れることができるのだ。

 ちなみに一週間は地上で戦争が起こっていても問題ないように作られているし、自給自足施設まで設けられている。

 かなり大がかりな施設だが、まあそこは人工島万歳、ということである。

 剣の精鋭メンバーは、二つのグループに分かれて動いていた。

 といっても、沖野宮高校に在籍しているか、ジュピター・スクールに在籍しているかどうか、という簡単なものだが。


「なるほど、その話。私も聞かせてほしいが、かまわないかな?」

「!」


 風香が振り向くと、スーツ姿で片手剣を腰につった青年がいた。


「もしかして、新川修さんですか?」


 エイミーが聞いた。


「エイミー。知ってるのか?」

「雑誌に載っていました。魔法社会最大の財閥の会長さんと紹介されていましたが……」

「要するに……すごく大金持ちなんだね!」


 とりあえず雫は思考を放棄したようだ。それだけはよくわかる。


「私のことを知っているのなら話は早い。とりあえず話を……といいたいところだが、すでに来てしまったようだ」

「え?」


 修が見た場所を、雫、風香、羽計、エイミーは見た。

 そこからは、三体のドラゴンが出てきた。

 いずれも、大樹の幹のような表面をしている巨大な個体である。


「な、何あれ」

「ふむ、聡明さんと蓮さんからの連絡では、走行型の武装しかもっていなかったとの話だが、こういったアイテムもあるわけか」


 今回の件において情報を集めて指揮を執っている二人からのメールを思い出しながら、そんなことを修はつぶやく。

 だが、次の瞬間には右手で剣を持っていた。


「あれ、ひょっとしなくても戦えるんですか?」

「もちろん。ただ、向こうのあれは任せてもいいかな?」


 修が指差した先には、この三体よりももっと大きな個体のドラゴンがいた。


「んなっ……頭おかしい!」

「この三体は私が片づけておこう。向こうは任せておく」


 そういうと、修は突っ込んでいった。

 それと同時にあわてる雫。


「ど、どうしよう!」

「いいから私たちはあれを片付けるぞ」

「修さんに加勢しなくてもいいのですか?」

「多分いいと思うよ。SPが近くにいる様子がないし、護衛が必要ないってことなんじゃないかな」


 エイミーも不安になっているようだが、羽計と風香という『名家出身』だからこそわかること。

 二人も護衛は常につけないタイプだが、そもそも秀星や来夏という存在が強すぎて必要なかったのだ。

 だが、何も戦えないというわけではない。


「なら、レッツゴー!」


 雫が突撃していった。


「あ。待て!」

「止めても作戦を考える時間はないと思いますが……」

「ならとにかく、三人で抑えてて、私がしとめる」


 風香がいつもより真剣な表情でドラゴンを見ていると感じた羽計とエイミーは、それに従うことにした。

 羽計とエイミーも雫に混ざる。

 雫は短剣を二本使って斬りまくっていたが、あまり効いていない。


「むううう……なかなか高い再生能力だね」

「雫。呪いをかけて再生能力を抑えろ。埒が明かん!」

「む、レーザーも効きにくいみたいですね。実弾で行きましょうか」


 試行錯誤をするというか、いつまでも同じことにこだわらない三人である。


「なら、これだね」


 雫がポケットから棺桶のようなアクセサリーを取り出して開く。

 短剣が格納されて、代わりに弓が出てきた。

 引き絞ると、自動的に矢が生成される。


「『カースド・インパクト』!」


 矢を放つと、ドラゴンの腹に直撃。

 ドクロの紋章が出現した。

 その紋章に向かって、羽計が突撃する。


「『壊閃(かいせん)』」


 剣を振る際に必要な場所。

 体全体に付与術を張り巡らせて、切れ味を剣にかける。

 それを、ためらいなく真横に一閃。

 たやすく肉を割いた。


「おおっ。すごく効いてるね」

「羽計さん。離れてください」


 エイミーはバチバチと音を立てる大砲を背負って、固定器具を地面に指してかまえていた。

 羽計は足腰に付与術をかけて、即座に離れる。

 エイミーは頭に装着するタイプの照準器ごしにそれを確認して、引き金を引いた。


「『超電磁砲(レールガン)』!」


 砲弾がドラゴンめがけて放たれる。

 腹に風穴を開けたが、再生能力はまだ健在だった。


「うえっ!?あの呪いを受けておいてまだそんな再生能力が……」


 雫が驚いたが、ドラゴンの口の中にエネルギーが集まるのを確認した。


「まずっ!」


 棺桶を開いて、弓を格納して大剣を出現させる。


「羽計ちゃん。よろしく!」


 雫はそういうと飛び上がった。

 羽計は雫の動きに合わせて付与術をかけた。

 そして、エイミーはドラゴンの口の近くに向かって一つの砲弾を撃ち込む。

 すぐに破裂して、濃霧を発生させた。

 口の中にたまっているエネルギーが減少し、雫と羽計はレーザーの威力を抑えるものだと理解する。

 そして、ブレスが放出された。


「おりゃあああああ!」


 飛び上がった雫が大剣を振り下ろして、巻き起こった風がブレスを割いた。

 その時には羽計がドラゴンに接近しており、『重量増加』を一瞬だけ剣に付与して、ドラゴンを無理やり後ろに下げた。

 そして、エイミーが新しい大砲を取り出すと、光そのものが濃縮したような弾丸がドラゴンに直撃し、さらに後退させる。

 その時、三人の後ろから風香の声が聞こえた。


「三人とも、準備はできたよ。ただ、これはちょっとまだ制御が不完全だから離れててね」


 そういいながら刀を抜く風香。

 まるで、風そのもののオーラを身にまとっているような雰囲気。


「さてと、『旋風刃』は本来、『儀式』を技術化させたもの。だから、本来の『儀式』を見せる」


 次の瞬間、爆発的な速度でドラゴンに接近する。


「『儀典旋風刃(ぎてんせんぷうじん)(げき)証明(しょうめい)』」


 一閃。

 それだけで、先ほどの羽計と一撃とは比べ物にならないほどドラゴンが吹き飛んだ。

 だがもちろん。ここで風香が攻撃をやめるわけではない。


「『儀典旋風刃・砂塵諾諾(さじんだくだく)』」


 刀を一振りすると、砂塵が巻き起こる。

 次の瞬間、ドラゴンはうまく、体が動かなくなった。


「『儀典旋風刃・天衣無縫(てんいむほう)』」


 一突き。

 それだけで、ドラゴンは再生能力を失った。

 だが、風香はこのタイミングで、自分が纏っている風が、一瞬だけ揺らいだのが分かった。


「む……もうあまり時間がないね。なら、次で終わり」


 刀を上段でかまえると、風香の頭上に、八つの門が出現する。


 武家屋敷の正門のような、古いが伝統のある門。


 そして、その門がすべて、音を立てて砕け散る。


 砕け散った扉の奥からは、絶大なほどの風が巻き起こる。


 そしてその風はすべて、風香が持つ刀に集約された。


「儀典旋風刃」


 集約された風は、解放されて竜巻のように大きくなった。


絶技(ぜつぎ)八王天命(やおうてんめい)


 自慢の再生能力すらも失ったドラゴンに、それをどうにかする力は残されていない。

 振り下ろされた斬撃は、ただ、ドラゴンの命を奪った。


 地響きをたてて倒れるドラゴン。

 そしてそれをやった風香に、雫が抱き着いた。


「風香ちゃんすごいね!」

「きゃっ!」


 最初に言った『制御できていない』というのは、言い換えれば『まだ使いこなせていない』ということであり、転ずれば『使うのにかなりの体力を使う』ということだ。

 当然、そんな状態の風香に思いっきり抱き着けば、それはそれなりにやばいことになる。


「むむむ、いつもより抵抗がかなり少ない……なるほど、体力が大幅に削られているみたいだね」


 楽しそうな笑みを浮かべる雫。

 風香は顔が真っ青になった。

 だが、そんな雫の頭に、羽計が剣を鞘におさめてからぶっ叩く。


「痛い!」


 風香を話してうずくまって頭を抑える雫。

 どうやら羽計はそれなりに本気でたたいたようだ。

 解放された風香は、刀を杖代わりにして立っている。


「で、大丈夫なのか?」

「うん。かなり体力を使うけど、ゆっくり休めば元通りだよ。これは秀星君にも確認済みだから」

「なら大丈夫ですね」


 こういう時でも秀星の名前は使えるのだ。

 知識量が多いことを示しているといざという時に説得力が大きい。


「あ、修さんの方は……」


 風香が修の方を見ると、すでに修は三体のドラゴンを倒していた。


「すさまじいね。誰かが圧倒的な単発火力を出さない限りは倒せないと私は思っていたのだが、まさか君がそれをするとは……」

「まだ使いこなせてないんですけどね。これでも秀星君に稽古をつけてもらっているんですけど……」

「ふむ、なるほど」


 秀星の稽古ありきでまだ使いこなせていない。

 まだ秀星でも、即座に理解することができないものがあるということなのだろうか。


「でも、秀星君は即座に完成させていたんですよね。考えたのは私なんですけど、理論をしっかり構築して、完成させたのは秀星君です。今は、私がそれを見よう見まねで頑張っているような感じで……」

「秀星君は相変わらず化け物だね!」


 ついにはチームメイトからも化け物呼ばわりされるようになった秀星。

 まあ否定はしないだろうが苦笑いはされるだろう。


「とはいえ、ある程度動ける体力は残しているようで何よりだ」

「そのリミッターも秀星君が考えたものですけど……」


 修は頭を抱えた。


「まあいい。私はまだ行くところがあるからこれで失礼する」


 修はそういうと離れていった。


「それじゃあ。私たちも移動しよう。風香ちゃんは無理しないようにね!」

「わかってる」

「どうせなら私がおんぶするよ!」

「純粋に嫌」

「ガーン!」


 当然である。

 とはいえ、まだすることがあるのは事実。

 四人も移動を始めるのだった。

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