第二百五十八話
来夏を相手に思いっきり負けてしまった天理だが、別にこれは天理が弱いというわけではなく、来夏がおかしいということは間違いない。
実際に、剣術に関しては無駄のないものだったので、羽計や風香が挑んだりしていたが、全く歯が立たなかった。
これで、変なのは秀星と来夏だけ、と言うことになったのである。
そしてそれを来夏も秀星も否定しなかったので可決した。
別に秀星も来夏もそのあたりのことは気にしない。
秀星は圧倒的な感覚神経を持つが、元々は神器持ちでもなければ言うほど才能を持っていない常識人だったし、来夏は『悪魔の瞳』によって感情が分かる。
要するに、二人ともある程度分かってやっているのだ。
そういう評価こそ適正であると二人が判断するのは当然である。
そんなことがジュピター・スクールで起こっている時。
FTRでも、動きがあった。
「……よって、この武装を扱えるものを、皆さんには一時的に貸していただきたいのです」
『五大会議壊滅作戦考案会議室』と書かれた立札がドアのそばにある会議室。
プロジェクターがあり、それなりに大人数が座れるようになっている。
高級なスーツを着ているものも多い。
彼らがここに集まっているのは、今レジュメを出したり、プロジェクターを利用して説明している男が説明している『武装』を扱えるようにしてほしい。というものだ。
他の部署の人間でも無視できない性能の武装。
それがまとまった数、この議会が手に入れたと言う情報が入ったため、このように会議になったということである。
説明しているのは、議長であるまだ若い男性だ。
まだ三十歳にもなっていないところを見ると、よほど優秀か、めんどくさそうなプランなので野心に燃えている奴に適当に押し付けたのか、そのどちらかだろう。
「その武装、『ブランク・アームズ』と言ったか?その武装をどうやって手にいれた」
見ていた中の一人がそういった。
議長は笑みを崩さない。
「それに関しては極秘と言うことになっています」
「どうしても話せないの言うのかね?」
「はい。ですが、武装の性能に関しては、今までの常識を覆すほどの性能を秘めているといえるでしょう」
自信満々に言う議長。
確かに、プロジェクターに映された動画では、自分たちが抱える研究機関の人間が愕然とするほどの性能を持っている。
近未来的な見た目をした武器の数々。
ブレード、銃を軸に、好みでカスタマイズできるようになっている。
さらに、防御面に関しても武装が存在する。
フル装備で行けば全身兵器とも言える戦闘能力が発揮できそうだ。
それに加えて、様々なアイテムが多数そろっている。回復系のアイテムからモンスター召喚系のアイテムまで、様々だ。
ある程度の魔力的な才能がなければ、扱うことが難しいという欠点がある。
ただし、それを補えるほどの汎用性がある武装が多いため、少数精鋭で短期決戦を持ちこむこともできるだろう。
この会議室で開かれているプレゼンは、その人材を他から引っ張るためのものなのである。
「この武装を使い、できる限りの最大人数で襲撃した場合、あの五人の抹殺確率はどれくらいになる」
「フフフ。みなさんは納得しないでしょうが、十割。私はそれを確信しています」
断言する議長。
その宣言に、他の部署のもの達は少なからず驚愕した。
そもそもこの会議の目的は、魔法社会における重要な部分を決めている五人を抹殺するというもの。
秀星がいるうちに、近年は本人たちが集まって決めきれない部分を決めてしまおうという考えで集まっているので、それを狙ってまとめて消し去る。と言うものだ。
もちろん、簡単なことではない。それは全員が分かっている。
重要なプランのため、割り当てられている予算も莫大だが、あまり成果があるとは言えない。主に秀星のせいで。
そのため、ここまで確信を持って言える。ということが信じられなかった。
だがしかし、動画で見せられた威力はすさまじい。
実際にそれほどの戦闘力があると示されたことで、ありとあらゆる部署に取って『人体実験に過剰に反応して潰してくる』という目の上のたんこぶである秀星を倒したうえで、その五人を潰すことにより、誰にも抑えられない無法地帯を作りだすことが出来る。
その上で、自分たちが支配することで、魔法社会において、自分たちに勝る組織がなくなる。
そうなれば、後は漏れがないように少しずつ修正していけばいい。
(なるほど、これが本当に成功すれば……)
実際のところ、本人たちは乗り気かどうかと言うより後がなかった。
ありとあらゆる戦力を投入しても、秀星はそれを凌駕してくる。
今まで自分たちに手が出せなかったほどの性能を持った武装が出てきたのだから、これに賭ける価値は十分にある。
「……いいでしょう。我々の部署からは人材を送ろう」
「我々の部署からもだ。成功を祈る」
誰かが言ったその言葉。
それをはじめとして、至るところから賛成の声が上がる。
もちろん、言い始めた部署と言うのは、議長があらかじめ仕込んでおいたサクラである。
希望が見えた時に誰かが賛成すれば、人間はそれに乗っかるものだ。
第一、後がないのは分かり切っているのだから当然である。
(よし、これが成功すれば、私は最上層部に上がれるのは間違いない。精々頑張ってくれよ。下賤共。それにしても、Sには感謝しないとな)
この議長に武装やアイテムを提供した『S』という人物。
なかなか顔立ちのいい女性であることは分かっても、それ以上のことは議長にはわからなかったが、武装やアイテムを無償提供してくれるというのだから、その程度のことは些事だ。
しかも、使用方法に関してもマニュアル化して提供された。
(何人か乗ってこない部署の連中がいるな。チャンスが目の前にあってもわからないバカ共め。まあいい、ここで賛成しなかったことを後悔させてやる)
議長は満足そうな笑みを浮かべて、感謝の言葉を述べている。
そんな会議室の中で、彼がバカにしたもの達。
確かに不安をぬぐいきれないもの達もいたが、一部、『神器』というものがどれほど底が知れないものなのかを経験している者もいた。
秀星が戦い続けたせいで、あの五人の戦闘力が全く持って不明。
むしろ、あの五人に任せてもいい場面であっても、秀星があえて戦っていた。
そのせいで、情報が不足している。
最悪の事態。というのは、主に敵の戦力の全貌が分からないゆえに限度が見えないのだ。
藪をつついて蛇を出す程度なら問題はない。
蛇程度ならば、しかるべき治療法をとった後に、準備を整えればいいだけのこと。
だが、蛇よりもっと恐ろしいものだった場合はどうするのか。それが全く、このプレゼンでは触れられなかった。
だからこそ手を挙げなかったというだけの話である。




