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第二百五十六話

「……かなりげっそりしたな」


 六日目の朝。

 とりあえず平和になりますようにと祈りながら、秀星は学生寮から教室に入った。

 その時見た雫だが、かなりげっそりしていた。


「フフフ……天理ちゃんがなかなかすごかったんだよ」


 秀星としても、それくらいしか原因が考えられないのは理解している。

 だが、それにしてもこれはどうなんだと元勇者に対して問いたい。


「美奈。顔が真っ赤だがどうした?」

「覗いてました!」

「そうか」

「大人のおもちゃがいっぱい出てきてすごかったです!」

「……」


 本当に何を考えてるんだあの元勇者。

 ……いや、元というかある意味今も勇者だが。


「なるほど、状況は分かった」


 理解はしたくない。


「でも、気になることを言ってたんですよね」

「なんだ?」

「異世界にはないハイテクだな。だそうです!異世界ってどういうことなのでしょうか?」

「これから君は夜になったら自室でじっとしておきなさい」

「でも、お母さんが言ってました」

「言ってみろ」

「据え膳くわぬは女の恥。だそうです!」


 三割くらい本気で母親を殴りに行きたくなった秀星。

 中学三年生にしては頭がすっとぼけているような気がする美奈。

 だからと言って何もそんなことを吹き込まなくてもいいでしょうに。

 それともう一つ。

 何をどう考えても朝っぱらから教室で大声でいうことではない。


「美奈。もうそろそろ朝礼の時間に……なんだこの空気は」


 基樹が教室に入ってきた。


「昨日、野生のユーリアが出てきたんだ」

「そうか……は?」


 基樹はすっとぼけたような声を出す。

 まあ、自分をぶっ殺した相手なのだ。そりゃそうなる。


「あのジャンキーが出没したのか」

「ああ……」

「で、どういうことだ?」


 基樹は雫を指さす。

 秀星は生暖かい目で言った。


「食べられたみたいだ」

「なんかイメージと違うううぅぅぅ……」


 頭を抱える基樹。


「はぁ……で、今はどこにいるんだ?」

「アステロイドゾーンの特殊育成機関みたいだな」


 学校の名前が太陽系の惑星からつけられているが、火星の木星の間に存在する『アステロイドベルト』からとってつけられた名前である。

 八大魔戦学校と比べて、塾程度の生徒数の学校が立ち並ぶ場所だ。


「ああ、専門性が高く、八大魔戦学校と比べてそれぞれの研究施設とのかかわりが強い学校か」

「そうだ」

「なるほど……この学校からかなり近いな」


 ジュピター・スクールのジュピターは木星である。

 アステロイドゾーンは隣だ。


「これからはそっちに行くときは注意しないとな。正直あいつは面倒だ」

「だと思うぞ」

「まあそれはそれとして、美奈。行くぞ」

「うん!」


 基樹が教室を出ると美奈がついて行った。

 そして、秀星も自分の席に座る。

 思いっきり溜息を吐くのだった。


 ★


「なんと言いますか……すごい人は一定数いますね」

「ムフフ。帰ってこられないかと思ったよ」

「いったいどういうことなのです?」

「美咲。あんたはまだ聞かないほうがいいわ」

「優奈ちゃんも早いと思うけど」


 学食。

 アレシアは苦笑し、雫は時々トリップして、美咲が疑問に思って優奈が止めて、風香がつぶやく。

 今日もにぎやかである。


「でも、強いのは事実ですよね」

「ああ。秀星が相手だから新手のイジメみたいになっていたが、ほとんど本気を出していないとすれば、基礎戦闘力がかなり高い」

「昨日の夜は無駄がなかったよ!」

「お前には聞いてない」


 エイミーの確認に羽計はうなずいた。

 雫が余計なことを言っているので秀星はバッサリ切っておく。


「へぇ、実力はそんなにあるのか、剣の精鋭に入れたら面白いかもな」


 沙耶がストロベリーパフェを掃除機みたいに吸っているが、そんなことは気にせずに来夏が言った。

 ちょっと待て、これ以上濃いやつをぶっこんでどうするんだ。シリアスパートに入る時にだれが調節するんだまったく。


「フフフ。それはそれで面白いかもしれませんね」


 アレシアが不敵に笑っている。

 それをみた雫の顔が少し青くなった。

 何かトラウマでもあるのだろうか。というよりアレシアを恐れているメンバーが多すぎである。


「ここにいたか!」


 学食の扉が思いっきり開くと、天理が入ってきた。

 なんでわかった。

 こちらにまっすぐ歩いてくる。

 雫が『おっ』と反応している。


「秀星。今日も勝負だ」

「懲りてなかったのか」

「当然だ。今日こそは本気を……」


 天理の表情が、掃除機食いで巨大パフェ二本目に突入している沙耶を見て驚愕している。

 沙耶は気にせずパフェを吸っていた。

 時折バリバリ言っているところを見ると普通に咀嚼している。

 幼児とは思えない顎である。

 沙耶は天理の視線に気が付いたのか。『んっ?』といった様子で天理を見た。


「あ~」


 天理に向かって両手を伸ばす沙耶。

 天理の顔がゆでダコみたいに赤くなった。無表情のまま。


「ほい」


 来夏が天理に沙耶を渡した。

 天理は思ったより丁寧な手つきで沙耶を抱える。

 そのままよーしよーしと揺らしている。


「う~」


 とても気持ちよさそうにしている沙耶。

 まあ寝る気配は微塵も感じられないが。


「……かわいい」


 かなり新鮮な反応をする天理。

 前世では子供を抱いたことはないようだ。


「だろ?オレみたいに元気いっぱいだからな」


 和也を殺す気か。旦那の体の心配もしろ。


「……ところでさっきのは何?何かの幻覚?」

「「「現実です」」」


 来夏以外の全員から即答された。


「……そう」


 天理はニューロンがスパークしたようだ。秀星も経験があるのでよくわかる。


「……旦那さんに勇者の称号をあげてもいい気がする」


 元勇者に言われるとは思わなかっただろうな。和也。

 何を考えたのか天理に体を埋めようと頑張っていた沙耶を来夏に返す。

 ただ、沙耶は来夏のほうを向かない。

 まだちょっと汗臭いのだ。


「……はっ!忘れるところだった。秀星。また私と勝負する」

「完璧に沙耶で思考が吹っ飛んでたもんな」


 ちなみに原因となった本人はパフェの掃除機食いを再開している。

 天理はあえてそっちを見ようとはしない。

 勇者に現実逃避をさせるとは。いったいどんな遺伝子なのだろう。


「そういえば、強いって話だったけど、どれくらい強いんだ?」

「少なくとも、あなたよりは強い」

「……へぇ」


 来夏と天理がバチバチしている。


「あう~(訳:おかわりちょうだい)」

「お、すまんな」


 空になった二本目を置くと、三本目を手に取る来夏。

 ちなみに全部で七本である。


「……」


 そしてそれを見て絶句する天理。

 ちなみにいうと……巨大パフェ七本は秀星でもちょっと食べきるのにはつらい量である。

 秀星が使う神器は思ったよりギャグ補正を追加してくれないのだ。


「まあおいておくとして……一戦だけやってみる?」

「別にオレは構わねえぞ。最近トラックしか運んでないからな」

「え、う、うぅん?」


 来夏が言っていることが理解できない天理。


「でも、私より強い理由にはならない」


 ちょっと苦しい気がする秀星。

 というより、来夏のギャグ補正が強すぎて天理がすでに負けている気がするのだ。


「なら、一戦だけな」


 そういって楽しそうな笑みを浮かべる来夏。


(……まあでも、それはそれなりに気になるな)


 天理が相手となれば簡単ではないはずだ。

 どんな戦いになるのか楽しみである。

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