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第二百五十五話

「さすが物騒なものが多数そろっているメイガスフロントだ。警備員の対応もいいな」

「すごいね。スーパーから遠いのにものすごく速く駆けつけるって言ってたし」

「とはいえ、すでに襲撃者の拘束は終わっているからな」


 スーパーで襲撃者を拘束した秀星、雫、羽計の三人。

 飛ぶ斬撃を放出してくる両手剣を持っていたようだが、特に秀星には通用しなかった。


「襲撃者の拘束ね。まあ、それはそれとして……隠れてないで出てきたらどうだ?」


 秀星は広場の端にある柱に向かってそういった。

 雫と羽計が驚いたような表情で柱を見る。

 すると、柱の裏から出てきた。

 秀星とほぼ変わらない年齢の少女だ。

 水色の髪を伸ばした無表情の顔つきで、白いシャツと水色のミニスカートの上に、青いコートを着ている。

 背中には黄金の剣を装備している。

 それをみた秀星は、少しだけ表情が変わった後、元に戻った。


「……秀星君。知り合い?」

「いや、初対面だが……どんな奴なのかは知ってるよ」


 秀星は驚いた。

 可能性の一つとして考えていたが、魔王だけでなく、勇者まで転生しているとは考えていなかったからである。


「一応確認だが……ユーリア・フォールサイトってご存知?」


 秀星の問いに対して、少女の表情も変わった。

 そして口を開く。


「……私の名前は水無月天理(みなづきてんり)。そんな名前は知らない」

「なるほど、言いたいことは分かった」


 知らないというよりは『嫌っている』ともいえる。

 それは転ずれば、『昔の自分が嫌いだ』ということだろう。


(何があったのやら……まあなんとなくわかるんだけどな)


 秀星の知り合いの範囲で、異世界グリモアにいたのは、秀星本人と、元魔王である基樹だけ。

 秀星は勇者であるユーリアが魔王を倒す手筈を整えて、そして倒した後はすぐに帰ってきた。

 当然ながら、倒された基樹はその時点でグリモアでの命は終わった。

 結果的に、『魔王が討伐された後の勇者』がどうなったのかが分からないのである。


「ふむふむ、よくわからないけど……胸大きいね!」


 雫が空気に爆弾を投下した。

 そう、天理の胸は大きい。

 剣の精鋭の中でもでかい雫に匹敵するくらいデカイ。

 ……転生前は絶壁だったのに。


「何か余計なことを考えている」

「女の勘がいいのはフィクションの中だけにしてほしいなぁ……」


 秀星はまじめにそう思った。

 心が休まる場所がないからである。


「さて、まあ、なんだ。ここではお前がやりたいことをしないほうがいい」

「なんで?人質はすべて開放しているし、襲撃者は拘束している。そして、この広場はかなり広い。私にとって都合のいい場所であることに変わりはない」


 天理はとても黒い笑顔で背中の黄金剣を抜いた。


「秀星。あの天理という少女の雰囲気、来夏に似てるな」

「要するに……そういうことなんだね」

「ああ。戦闘狂(バトルジャンキー)なんだよな……」


 異世界ではところどころ挙動不審がある清楚な感じだったのだが、当の本人はガチの戦闘狂だ。

 無表情なのでちょっとわかりにくいが。


「どうしたの?戦わないの?」

「メリットも義務もないんですけど」

「ふむ……なら、あなたが勝ったら、なんでも一つ、いうことを聞いてあげる」

「なんでも!?」


 反応したのは秀星ではなく雫である。

 しかもとてもいい笑顔で。

 というか瞳がとてもキラキラしている。

 秀星と羽計はゴミを見るような目で雫を見た。


「秀星君!頑張って!」

「なんでお前がノリノリなんだ」

「だって、あんなにエロい体をした女の子を好きなように……ウヘヘヘヘヘ」


 トリップし始めた雫。

 ちらっと天理を見ると、表情が変わっていない。

 それに気が付いたのだろうか。羽計がつぶやいた。


「天理のほうは反応が薄いな」

「私はどっちもいける」


 自重しろ元勇者。

 秀星は何を言えばいいのかわからなくなった。


「秀星君。これは挑戦するべきだよ!」

「……」


 秀星は溜息を吐いた。

 それにしても、と思いながら天理が持っている黄金の剣を見る。

 細部が異なるものの、その形状はほぼ基樹が持っていたものと同じだ。

 何か関係性があるのだろうか。


「わかった。一回だけやってやるさ」


 秀星は手を出して、星王剣プレシャスを出現させる。

 天理はうなずくと、合図用のコインを取り出そうとしたのだろう。左手をコートのポケットに突っこんで……探り始めた。

 そして、『あれ?』という表情をしてさらに探る。

 見つけられなかったのか、右側を探る。

 見つからないようだ。


「……ちょっと待ってて」


 天理は柱の裏側に行って、大型のバッグを取り出した。

 ドライヤーとかダチョウの卵とかネイルガンとかゴキブリホイホイとか消火器を取り出した後で、ピストルを取り出して持ってきた。


「なんだそれ」

「合図」

(いや、無理があるような……)


 というよりバッグの中に何を入れているのだろう。

 ドライヤー以外あまり意味が分からない。


「じゃあ私は合図するね!」


 雫が天理のほうに走って行ってピストルを受け取っている。

 天理も普通に渡している。

 雫はちょっと離れて、右腕で耳を塞ぐようにして銃口を上に向けて、左手で左耳を塞ぐ。


「よーし、はじめ!」


 ピストルはカシュッと音を立てて、銃口から弾丸が発射されて照明を砕いた。


「……あ、ごめん。消音機(サプレッサー)つけっぱなしだった」

「実弾入りのところスルー!?」


 秀星が突っ込んだと同時に、天理は剣を構えて突っ込んできた。

 剣を振り下ろしてきたので、プレシャスで受け止める。


「おいおい。ちょっと人がツッコミ役に回ってるんだから不意に仕掛けてくるなよ」

「私はあれが合図だといった」

「ソウデスネー……(基本は無表情のくせに調子に乗っちゃってるなこの小娘)」

「それに、やる気がないのは私に失礼」

「急に仕掛けてきておいて何が失礼だ」

「私はしっかりメリットも掲示した」

「……」


 言っていることはあながち間違っていない。

 のだが、都合のいいように解釈するゆえに出てきた説得力という感じがして、秀星は納得できない。


「はぁ、悪い子にはちょっとお仕置きするか……」

「?」


 次の瞬間、秀星はつばぜり合いをうまく受け流すと、剣の腹で天理のおしりをたたいた。


「痛っ!」


 天理は左手でお尻をさすりながらパッと離れる。

 そして秀星をにらんでくるが、秀星は無表情だった。


「む、むむむ……」


 天理は構えなおすと、再度突撃してくる。

 秀星は剣をはじいて、またおしりを叩いた。


「むぎゃっ!」


 今度はちょっと涙目になった天理。


「む……むうううう」

「まじめに戦ってほしかったらもうちょっと子ども扱いされないだけの力をつけてくるんだな」


 そもそも、黄金の剣の力を使ってないところを考えると、天理のほうも全く本気ではない。


「なら、ちょっと本気出す」


 天理は黄金の剣を光らせて、先ほどよりも速度を上げて切りかかってくる。

 しかし、その程度では通用しない。


「うみゅっ!」

「はうあっ!」

「ひいぃっ!」


 三連続で躱されておしりを叩かれた天理。


「う、ぐすん。降参する」


 秀星は回復魔法を使って、お尻の痛みを直した。


「……痛くない」

「回復魔法。使ったことないのか?」

「なかった」


 ある意味すごい。


「魔王も弱かったし」


 基樹が聞いたらなんていうだろうか。


「ムフフ。天理ちゃんとあんなことやこんなことを……」


 トリップしている雫。

 秀星と羽計は諦めることにした。


「もうそろそろ警備員が来ることか。照明なおしておかないと」


 流石に照明は直しておこう。

 ほぼ偶然だが、ぶっ壊したのは雫である。


(……面倒なのが揃ってきたな)


 照明を魔法で修復しながら、秀星はそう思うのだった。

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