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第二百五十話

 盛大に技術を披露したわけだが、全く新しい技術というよりは、すべて延長線上、または派生技術しか見せていない秀星。

 もっと上があるのではないか。と思う人もいるのだが、まず見せられた技術がなければ上も下もないので、みんな特訓中である。

 当然、それは秀星が通う沖野宮高校から来た生徒たちも同じだ。


「……」


 試験会場で基樹と戦っている秀星。

 彼が見せる技術の数々を、客席に交じって影葉は見ていた。

 どこをどう見てもかわいらしい顔立ちの影葉だが、彼女がいても、誰も気にしていなかった。

 一応制服は合わせているが、それでも、不気味なほど周りに溶け込んでいる。


(……原点、真理に近い魔法)


 秀星が使っている魔法を見て、影葉はそう思った。

 魔力を魔力のままで使って最高峰に立つ自分たちと、魔力の本来の姿を使うことで最高峰に立った秀星。


英司(えいし)様ですらさかのぼり切れていない力。隠すと思っていたけど、ここまで見せてくれるとは思っていなかった)


 ちなみにこっそり録画中である。

 隠すかどうか、という話だが、すごいと思うだけで理解できないものなどいくらでもいることを考えれば、見せるだけなら問題はない。


(これを見せた時点で、すでに手遅れ)


 影葉はそう考える。

 おそらく秀星が使っている青い炎や白い炎は、魔力を質的に合成することで生まれたもの。

 簡単に言えば、青い炎や白い炎を出すための訓練は、そっくりそのまま、『上位魔力を扱うための訓練』ともいえる。


(ただ、衝突したときに明確に差が出てる。これの意味が分からない)


 秀星が白い炎を出して、基樹が青い炎を出したとき、秀星の白い炎が完全に押し勝っている。

 純粋な膂力でいえば、見た感じは秀星のほうが下だ。

 だからこそ、基樹は遠距離戦を捨てて接近して戦っている。


(あの黄金の剣。あの強化されているほうが完全に押し勝ってるように見える)


 その『完全に』という部分の意味が分からないのだ。

 同じ速度で別の素材のボールがぶつかった場合、頑丈なほうが押し勝つのは当たり前だが、それでも、頑丈だからと言って抵抗すら発生しないわけがない。

 だが、発生している様子はない。


(そこに大きな秘密がある)


 朝森秀星という存在の強さの源は、神器もそうだが、何より『神器を神器足らしめているもの』に対する理解だと考えられる。

 通常、神器を単なる道具としてしか使うことはできない。

 言い換えるなら、『機能』は知っていても『構造』はわからないのが普通だ。

 しかし、秀星の場合は『構造』まで把握している。

 そして、『構造』が分かっているということは『材料』が分かっているということだ。

 何を使って作られているのかが分かってしまえば、あとはその材料に対して見聞を深めていけばいい。

 ただし、実験することすら不可能なものもあるだろう。

 膨大な数の思考実験の末に、秀星はたどり着いたのだ。


(そこまでの領域に達しているのなら、今見せている技術すらも、まだ初歩の延長線上だと考えている可能性もある)


 観察していてネタが尽きない。ともいえるが、影葉はどこまでこの映像から自分の主人が判断するのか、ということが楽しみでもあった。


(もうすぐ時間が……!?)


 影葉は背中に悪寒が走った。

 一瞬、秀星と目があったような気がした。


(……気のせい?いや、あれほど予測不可能な存在なら、本当に私に気が付いていても不思議じゃない)


 都合のいい可能性と、都合の悪い可能性。

 過剰評価してもしきれないような存在が相手なのだ。都合の悪い可能性を信じたほうがいい。


(……別に敵対したいと考えているわけじゃないから、都合の良い、悪いなんてないんだけど)


 そう思う影葉。

 そもそも隠れようとしているのは彼女の職業柄の問題である。

 いずれにせよ、これ以上は踏み込まないほうがいいだろう。

 ブザーが鳴った瞬間、影葉という存在は、ジュピター・スクールから消えた。


 ★


(さーて、誰だあれは)


 その秀星のほうも、少女のほうを見て不自然なものを感じていた。

 自分のことを探っている人間がいることは当然理解している。

 第一、観客席にいつの間にかいる時点で探っているようなものなのだ。

 基樹の試験は、実はギャラリーありなのである。本人の同意が必要だが、基樹は『別にいいぞ』みたいな感じで普通に受けていたが、それは置いておく。


(探られているのは分かったが、命令系統はどこだ?)


 単なる情報屋だというのなら、当然一人だ。

 しかし、そんな雰囲気はなかった。


(雰囲気のオンオフで探ってみたが、彼女と似た雰囲気を持っている奴はこの場にはいなかった。アトムたちも見に来てたが、そっちとも別)


 雰囲気を隠そうとする場合、そこに溶け込もうとするわけだが、秀星の雰囲気のオンオフによって索敵できる範囲はかなり広い。

 その範囲に誰かがいるかもしれない。


(……千春?いや、ん?同じだな。ただ若干薄いというか細い。おそらく千春に何かを聞いたとしても、俺が考えている以上に核心に迫ることはないと考えていい)


 ……正直、女性視点から見ると付き合いたくない男性ランキングで五指に入りそうなほど探っているともいえるのだが、秀星は気にしない。


(ま、知られるなら別にそれはそれで構わないか)


 最終的に、秀星はそう結論付けた。

 メッセージも録画に仕込んでおいたので、気が付いてくれると幸いである。

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