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第二百三十六話

「どれほどの大物がいたとしても、『小手調べ』なら『小手調べ』程度のやつしか出てこないってことなのかね……」


 秀星は溜息を吐きながら、黒フードマントの男三人を手錠で拘束していた。

 秀星が魔法で作った手錠であり、神器クラスの手段をとらないと開けられないようになっている。

 空を見上げると、曇りで、星は見えない。


「にしても、夜に月が出ていると爆発的に強化されるタイプのスキルか。FTRは狼男も飼いならしてるんだな」

「それはそれとしても、まさか月がはっきり見える夜を曇りに変えられるとは思っていなかったでしょうね」


 秀星のつぶやきにセフィアが答える。


「天候に左右される反面、絶大な膂力を得ることができる。か。そんなの、天候を変更できるやつを相手にして出してくるなんて……指揮官はこっちをなめてんのかね?」

「天候操作は一般的ではありませんよ」

「それも知ってるけどさ。俺が『一般的』の範疇にいるわけないだろ。エインズワース王国にいたときに、盛大に魔法も見せておいたんだから、これくらいはできると思ってほしいね」


 秀星くらいになれば、天候の操作くらいはお手の物だ。

 そもそも、天候というのは完全ではなかったとしても、現代では予測できる程度のものでしかないし、それだけ研究されている。

 魔法などという物理法則に真正面からケンカを売るものを持っていて、なおかつこちらが規格外だとわかっているはずなので、もうちょっと歯ごたえのあるやつがいるとよかったのだが、そんなことはなかった。

 どこかパッとしない。

 そろそろ、小手調べで神器持ちが出てきてもいい頃だと思うのだが、インフレが足りないのだろうか。

 犯罪組織というのだから、当然裏には手が回るはず。

 もうちょっと秀星が遊べそうなものを持っているやつがいると退屈しないのだが。


「で、セフィア。どういう事情なんだ?」

「本来、極秘通信のみで、会うとしても二時間程度の重鎮たちが集まって会議をしているようです」

「メンバーの一人はアトムだな」

「はい」


 秀星はタワーに目を向ける。

 最上階の明かりはすでに消されている。

 だが、少し前まではついていたことを知っている。


「人を勝手に用心棒にするとは……」

「とはいえ、何かほしいものがあるというわけではありませんからね」

「ほとんど自分で用意できるからなぁ」


 秀星はあえて、すべてとは言わなかった。

 というより、自分にだって取りに行くことができないものはあるのだ。

 そして、それを取りに行ける人間を知っているのだが、この話はここで止めておこう。


「会議か……二週間も俺たちを置いておくことを考えると、それなりに長い会議になるってことなのか?」

「議題そのものは多いでしょう。中身はわかりませんが」

「まあ、アトムに加えて、ほかにもすごそうなのがいそうだし、『セフィアシステム』だと正直無理だろうね」


 神器には及ばずとも、アトムが持つ『才能』は恐ろしいものだ。

 秀星だって、アルテマセンスがなければどうしようもない。

 神器が無力化されても秀星は戦うことはできるのだが、その状態だとアトムとは正直戦いたくないというのが現状である。

 そのアトムが円卓に躊躇なく座るような相手、雰囲気から察するにアトムと含めて五人。

 すべての神器が機能している状態なら、秀星は真正面からぶつかれば勝てるが、正直相手にするのはいやである。


「それで、あの五人に干渉しますか?」

「どうするかなぁ……そろそろ、根本的な部分だとか、意図的に俺個人に対して隠していそうなことを知っておきたい気分ではあるけど……」

「一応、あの五人に忠実な者たちが秀星様の近辺を調べているようですが」

「……ふーん」


 秀星は少し微笑んだ。

 すぐに表情を戻す。


「で、この三人。どうしよっか」

「すでに警備員を呼んでいます」

「ああ、走っている音が聞こえてくるな。来るの遅くない?」

「交番が遠いので」

「すぐに駆けつける努力をしてこれか。これは交番じゃなくて司令部に問題がありそうだな」


 意図的に遅らせる。という部分にも意味はある。

 だが、そこにわざわざ意味を持たせるということは、また面倒なことになっているということだ。


「思ったより裏が大きそうだな。いったい何を隠しているんだか……」


 秀星はそうつぶやきながらも、なんとなく予測はできていた。


「まあとりあえず、小手調べが来たんだ。本格的なのが来るだろ」

「私もそう考えます」

「さて、やっておきたいこともあるし、そろそろ戻ろうか」


 秀星は楽しそうな笑みを浮かべながらそういった。

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