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第二百二十八話

 魔力の無変換技術。

 敵の戦術で魔法が根本的なものだった場合は絶対的な優位にたてる技術だ。


 だが、問題なのは、それをどうやってするのかである。

 何があるのかが知っても、方法がわからなければ意味がない。

 そしてそれ対する秀星の返答。


『俺がいまからやるとしても面倒なんだが、知りたいか?君たち』


 それに対する雫の返答。


『無理だね。対応策はあるの?』


 秀星の返答。


『集中力を地獄みたいに使うからな。常に意識していないと簡単に途切れるんだ。あと、予め自分の魔力を自分の体のそばに待機させておくのもいいぞ。待機させておいた魔力を使って空気中の魔力をかき集めて魔法を使うんだ。魔法を使ってくるとは思ってないだろうから奇襲にはもってこいだぞ。集中しないといけないから、混乱しているときはなおさら使えないし』


 で、体のそばに魔力を待機させる方法は簡単なので、それを教える秀星。

 みんなもすぐにできるようになった。

 一番速かったのは風香である。

 プラスの魔力を視認できるというのは大きなアドバンテージだったようだ。


 とまあそんなわけで、先生も帰ってきて代理授業は終了。

 授業内容を確認した先生からの評価は、『教科書の内容をどこまで進めるのかをまず決めて、時間が余ったらそういう知識を披露するんだよ』と言われた。

 言い換えるならば『脱線しすぎ』である。

 反論不可である。


 ★


「なんか、教師としては失格みたいな感じだな」

「うーん。そうだね。個人として聞く限りだと秀星君の話は面白いけど、先生としては駄目だったかな」


 教科書は一ページも進んでいなかった。

 ちょっと前衛的すぎる。

 雫に言われるのは少し嫌だが、秀星は反論しない。


「これならまだ自習のほうが良かったか?」

「どうだろうね。教科書の内容が必ずしも正確じゃないってことがわかったから、それだけでも十分だと私は思うけど」


 風香がフォローしてきた。

 必要なことではある。必要なことではあるのだが、ならばそれを前提にして、教科書の内容に沿って進めながら、備考欄で作って補足すればいいだけの話。

 長い時間を使うのは確かに駄目だった。


「先生って難しい。教壇に立つ先生って準備してるんだなぁ」

「とはいえ、秀星のアレは為にならないわけではないがな。特別講師として呼ぶには丁度いいと思う」

「教科書の内容が間違っているというのが日本の魔法社会のトップクラスの教育機関だと考えると笑えないですけどね」


 秀星としても不思議だ。

 そもそも、『教師』に適した神器も中にはあるはずで、その存在を考えるとこの教科書は間違っているしレベルが低い。

 もうちょっと機密を扱える組織とかになれば違うと思うが、この教科書のままでは問題が出そうだ。


「ていうか結局、今日やる範囲の備考欄を作ってきたばかりだしな……」


 そう言ってカツカレーのカツを頬張る秀星。

 現在は昼休みだ。

 学食で昼食を済ませている。


「あっ!みんないる!」

「おお。もう来ていたのですね」

「やはりここにいましたか」


 優奈、美咲、アレシアの三人がトレイを持って歩いてきた。

 美咲の足元ではポチがあくびしている。

 全員座って食事再開だ。


「それにしても、ここに来夏がいれば全員集合なんだけどな」

「先ほどトラックを運んでいましたよ」

「へぇ……ん?運転していたんじゃないのか?」

「担いでいました。業者の人が驚いていましたね。三十トン弱はあるので」

「……大型トレーラーに最大まで積んでるのか?」


 あきれた膂力である。

 ゴリラから魔人にでも進化したのだろうか。進化というよりは突現変異だが。


「まあ、いまさらか」

「両肩に担いでいましたね」

「ギャグどころの騒ぎじゃないな」


 ちなみに、純粋な膂力でいえば世界最強だろう。

 秀星でさえ、魔力込みでなければできないレベルだ。

 一般人なら魔法込みでも無理だが。


「ていうか、そんなことしてゲートを超えられるのか?自動車に関しては高速道路みたいなゲートだっただろ」

「来夏曰く、『中身に気を付けて飛び越えればいい』だそうです。ちなみに魔法は一切使っていません」

「無理だと思う」


 確実に着地した時に地面が陥没する。


「まあいいや。理解って言葉が恋しくなってくるからこの話題は避けよう」


 秀星の言葉に全員がうなずく。


「それにしても、実際に教科書を見て授業も受けてみたが……ひどいなこの学校」

「そこまでですか?」


 美咲がきつねうどんを飲み込んだ後で聞いてくる。


「本当にやばいぞ。付箋紙(ふせんし)つけてどうにか補足しようと思ったら新種のモンスターになった」


 自分で言っておいて変なたとえだと秀星は思ったが訂正はしない。


「それほど訂正が多いということですね……確かに、エインズワース王国でいろいろと確認しましたが違う部分はありました」

「しかも、見方を変えるっていうか、強引に表現を変えているようなところも多いぞ。もしこれを使ってこの学校の生徒が強くなっているとしたら、明らかに集団洗脳だ。元から才能があるのなら授業をボイコットするほうが強いな」


 ひどいというのか、それとも秀星が先に進みすぎているのか、それはわからないが、もう少し研究されていてもいいと思う。


「まあいいや。結果的に俺は困らないからな」


 そして開き直った強者が一番強いのは、個人レベルでいえば古今東西、さらに世界が変わったといても不変の事実であることは間違いない。

 周りからの冷たい視線程度で秀星は揺らがない。


「というわけでごちそうさん。俺はちょっと探検してくるから、またあとでな」

「うん。またあとでね!」


 雫が元気よく返事をしてくれたので、それをきいた秀星はトレイを返却口に返すと、学食を出て行った。


 ★


「いやーしかし、設備に関してはすごいっていうか、『ウィズダム・プラント』がかかわっているっていうのがよくわかるな。ていうかロゴ入ってるし」


 高性能なものを大量に作れるウィズダム・プラントと連携していれば、それだけで備品の発注も楽だろう。

 ウィズダム・プラントには巨大な倉庫もあるはず。

 生徒数が多く、消耗品に関してはウィズダム・プラントで作らなければ高くなるものも多いはずだ。

 工場を持っているだけで設計図は持っていないはずなので中途半端だが。


「計測室や実験室が多数あるな。まあ、生徒数が多いし、それだけないと足りないっていうのが本音か」


 計測室の使用は、予約されていない限りは入り口でカードを入力することで使用できる。

 と生徒手帳に書かれていた。


「単純に的が出てくる部屋もあるのか」


 秀星は部屋に入ってみた。

 それはそれなりに広い部屋だった。

 二重丸の的が部屋の奥のほうに多数並んでいる。


「なんかシューティングゲームとやりたいことは変わらんな。『ファイア・ボール』」


 手をかざすまでもない。

 秀星の近くで炎が収束して飛んで行った。

 普通に的に当たってぶっ壊れる。


「壊れやすく作られてるな。まあ、そのほうが大量に発注できるのかね……とはいえ、溶かして固めればいいだけの素材で作ってるのか、破片が回収されてる」


 リサイクルしているということだ。悪い判断ではない。

 次は何をしようかと思ったとき、部屋に誰かが入ってきた。

 この学校の制服を着た生徒だ。制服のネクタイはアレシアと同じなので一年で、取り巻きが二人いる。


「さてと、今日もちょっと遊んで帰るとするか」


 中央を歩く生徒は傲慢な笑みを浮かべた少年だ。

 秀星よりも身長が高く、鍛えているのがわかる。

 しなやかさは感じられないので、単純にプロテインと筋トレで作っただけのような感じにも見えるが。


槙野(まきの)さん。違う制服のやつがいますけど」


 取り巻きの一人がこちらを指さして言った。

 槙野と呼ばれた男もこちらを見る。


「あ?誰だお前」


 言いながらこちらに歩いてきた。

 誰といわれても……どうやらこの学校では秀星は有名ではないらしい。


「沖野宮高校から来た。今日から二週間、この学校で合同授業を受けるために来てるんだよ」

「ん?……ああ、あのズルしてるクズ学校の雑魚か」


 随分な言い方だが、クズ学校であるか、雑魚であるかどうかはともかく、ズルをしているのは否定できない秀星。


「で、お前はここで何してんだ?ここは俺専用の部屋なんだ。勝手に入っていいと思ってんのかオイ」

「君専用なのに俺がもらったカードで入れるっていうのは変だと思うけどな」


 秀星はカードを見せる。

 槙野はイラついたようだ。


「あ?俺が誰だか知って言ってんのか?」

「こちらのセリフでもあるが、君のことは知らん」

「俺は日本魔法社会のトップクラスの名家、槙野家の長男、槙野良樹(まきのよしき)だ。この名前を聞いて知らないとは言わせねえぞ!」

「……」


 確か、来夏の実家である諸星家と同格で、トップクラスの権力を持っていると聞いたことがあるような気がしなくもない。


「日本の魔法社会の最高会議の席を持ってる家だったか?」

「そうだ。俺がどれほど偉大な人間か分かったか!」

「君の家が偉大なのはわかった。君本人は知らん」

「チッ……てめえ、ぶっ殺してやる!決闘だ!」


 確か、この学校にあるシステムで、双方合意かつ、回復魔法が使える教師同伴で行われるものだ。


「……別にかまわない」


 むしろ歓迎する。

 秀星を敵として、正面から挑み続けることができるというのなら、その胆力と根性は評価すべきであり、拍手を送るべきものだからだ。


「クックック。ズダボロにしてやるぜ」


 いろいろ何をするか考えているようだが、別に何をたくらんでいようと構わない。

 誰かを人質に取ろうと構わない。とれるものならとってみろ。

 そして、おそらく集まるであろう観客たちにも教えるつもりだ。


 狂人すら超えたものが辿り着いてしまった、次元の違い。

 それを見て、まだ秀星に挑み続けることができるのなら、その時はまた評価しようじゃないか。

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