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第二百二十四話

 魔戦士育成専門学校。

 その名の通り、魔戦士の戦闘技術を学ぶというのが目的なのだろう。

 そもそも学校と言うのは、人材確保を目的として建てられる。専門学校なら尚更だ。

 オマケに国営となれば、それは日本政府が魔戦士の数が不足していると考えている。と言っているようなものである。


 日本の優秀な魔戦士が不足しているという問題は無視するとしても、そもそも魔戦士として必要なことがそこまで多いというわけではない。

 モンスターを倒して素材を集めること。それだけだ。

 研究だの開発だの、あとのことはそれをするもの達の分野である。

 要するに、どんな実力であろうと、『モンスターをできる限り傷をつけずに倒す』ということを突き詰めていけばいい。魔戦士として大成するというのはそう言うものである。

 もちろん、それらの知識や知恵は現場で培われるものなのだから、そもそもの地力がなければ話にならないということで、『幅広く使える基礎』を『叩きこむ』と言うのなら文句はない。


 ということを、飛行機に乗っている時に隣に座っていた羽計に言ってみたところ……。


「理想論。と言うものを知っているか?秀星」


 というとても分かりやすい返答が帰ってきた。

 それに対する秀星の返答は。


「言葉の意味なら知ってるよ」


 である。

 要するに、才能が溢れた育てるのに困らない生徒達に加えて、見せしめに使う一部の一般生徒ばかりが入っているということだ。


「なんていうか、研究されていないなぁ……才能でたどり着く場所に知識でたどり着く奴が敵にいたらどうするつもりなんだろ」

「それはそれで次元が違うな。まあ、才能だの血統など、そう言うことを言う奴が多いのは事実だ」

「……まあ、それは沖野宮高校に来たばかりの羽計も変わらんけど」

「!?」


 羽計は本気で驚いたような表情だった。


「ま、教材としては教科書が不完全なんだろ。そこのところはしっかりとまじめにやってそうな羽計がそうでもなかったからな」

「……」


 青筋を浮かべながらも、秀星との差がありすぎて何を言えばいいのかわからないというのが羽計の内心である。

 というより、秀星としても煽っているつもりがないのだ。それ以外に言いようがなかったからである。


「私は強くなったと思うのだがな」

「羽計は強くなってるよ。元が真面目だし」


 努力し続けることはなかなか難しい。

 だが、羽計は剣の精鋭の中でも一番それができる。


「しかし、秀才どまりだろう。天才には及ばない」

「いや、天才の分類には入ってるよ。少数精鋭で来夏をリーダーとする剣の精鋭にいるのは楽なことじゃない」

「そうか?」

「まだ解明されている範囲が狭い。それは言いなおせば、闇雲な努力しかできないやつが多いってことだ。成長したとしても、何故成長したのかが分からない。そんな中で誰もが認める成果を出すためには、間違える前に正解に走りださないと無理な話だ。それができるのが『天才』だって、アトムは言ってたけど」

「ふむ……では、秀星は何なんだ?天才を超えた人間を表現する言葉を私は知らないのだが……」

「俺は単純に運がいいんだろ」

「……理不尽だな」

「ああ」


 そこまで行ってしまうと、すべては運だ。

 自分の性格も、何をした時に何が起こるのかも、そしてその結果、何を手に入れるのかも。

 全て運だ。

 宝くじが当たるとか、そういう話じゃなくて、もっと、人にはどうしようもない話だ。


「ま、俺の話はいいさ。しかし、魔戦学校ねぇ……」

「どう思う?」

「あろうとなかろうとしらんさ。ただ、実技と知識のどっちが優先されているのかによるだろ。で、当然のように実技だよな」

「そうだな」

「何もわかってないのと同じだろ。まだ『訓練施設』って言い張る方がマシだ」

「なかなか辛辣だな」

「多分イラついるんだよ。『今のお前たちじゃどうしようもないことが山ほど溢れてるのに、なんででかい顔ができるんだ』って」

「……その『今の自分たちではどうしようもないこと』というのが、自分には関係ないから。と思っているからだろうな」

「ゴミだろ。マジで」


 自分でも珍しく、感情が抑えきれていないと思う。


「しかも視野が狭いのなんのって……」

「視野が狭い?」

「それは、今回私たちを魔戦学校に呼ぶ許可が下りた。と言うことに関してだろう」


 話に入ってきたのは、生徒会長の宗一郎だ。

 隣には副会長の英里もいる。

 魔戦学校から呼ばれたのは、秀星のクラスだけではなく、宗一郎が在籍するクラスもだった。

 三年の中には呼ばれたクラスはないが、秀星と宗一郎がいるクラスを呼ぶ。となっている時点で、目的が透けて見えるというものである。


「そうだな」

「どういうことだ?」

「簡単に言えば、機密情報が多数存在する国営の学校に、賛同者が多いとはいえ、学生の私情で一般の高校から生徒を呼ぶのが異常だということです」


 秀星は同意するが羽計は分かっていなかったようだ。

 英里が簡潔に答えるが、その通りである。

 国営で機密情報が多い学校に、確かに魔戦士として戦えるものが多いとはいえ、普通科高校の生徒をクラスごと呼ぶというのは妙な話だ。


「要するに、本来の目的は他にあるということであり、そちらが本当の機密の中の機密。トップシークレットだということだ」


 宗一郎がそうまとめた。


「二週間って言う期間も気になる。一体何をするつもりなんだか……」

「私にもわからないが、こんな遠く離れた田舎の学校でちょっと活躍していた程度でイラつくような学校だからね。どうにも軽く考えてしまうよ」

「会長は何時も軽く考えていると思いますが」


 神器使いゆえに難易度に疑問があるのだから仕方がないともいえるが。


「それにしても、魔戦学校か……」


 宗一郎が遠くを見るような目でそう言った。


「何か思うところがあるのか?」

「いや、中学三年の頃の受験シーズンに、スカウトされたことがあったからな。ちょっと思いだした」

「スカウトねぇ。どう思ったんだ?」

「憧れていたものが崩れたような感じ。とだけ言っておこうか」

「……その時から持ってた(・・・・)のか?」

「もちろん」

「……なら仕方がないな」


 気持ちが通じているのを感じながら、秀星と宗一郎は話す。

 だが、羽計は首をかしげる。


「何の話をしているんだ?」

「まあ……程度の問題ってことだ」


 秀星は溜息を吐いた。


「それにしても、井の中の蛙大海を知らずとよく言ったもんだが……」

「何が言いたいんだ?」

「そうだな。魔法も、スキルも、超能力も、剣術も、それこそ『気』と人が呼ぶものであっても、人が使うのは所詮『魔力』だ。で、魔力を使うゆえの『絶対的な優劣』って言うものがある。まあ、俺も昔は知らなかったんだけどな」


 とはいえ、それ以上詳しいことを話そうとすれば、神器とは何か。そしてそれを作った神は一体何なのかについて語る必要があるのでここでは止めておく。


「まあでも、なんか、分かるようにはなるんだけどな。俺たちくらいになると」

「私もそれには同意しよう」


 秀星と宗一郎。

 神器使いでありながらも研鑽を止めなかったものにしかわからないこともある。

 あまり、理解はしたくない。

 たどり着きたくはない。

 それは、守りたいと誓ったものすら、価値がないものだと思ってしまうものだから。

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