第二百二十三話
エリクサーブラッドに寄る完全耐性を持つ秀星に取って、三大欲求は実は存在しない。
食わなくてもいいし、寝なくてもいいし、出さなくてもいい、の三拍子である。
そのため、三つは必要ではなく、するとしても嗜好の一種となる。
「うぅん……良く寝た」
「おはようございます。秀星様」
セフィアがちょうど部屋に入って来た。
起きた瞬間にドアの前に転移していたのではないかと思うほどの反応である。
というより、『究極メイド『セフィア』の主人印』によって秀星に従える『セフィア』と言うのは、『メイドですから』という理由で片づけることができそうなことなら何でもできる。というものだ。
要するに何でもアリと言うことである。
「今日から新学期だな。転校生とか来るかな」
「来ませんよ」
「ほう、平和でいいなぁ」
このタイミングで転校生がもし来たとしたら絶対に何かあると秀星に限らずクラスの全員が思うだろう。
さて、そう言うわけだ。
「それじゃあ学校行くか」
「準備は整えています」
机の上には鞄と、綺麗にたたまれた制服。そして弁当。
「いつも通りだな。さて、行きますか」
着替えて、かばんを持って、弁当を突っ込んで、久しぶりに学校である。
★
おはよう秀星君!
といって毎回手を振って来る雫が、何故か『オオオォォォォ』と言いながら伸びをして体をほぐしていた。
のけぞったりすると胸が強調されるので若干視線を集めているが、別に秀星は気にしない。
「……朝っぱらから何やってるんだ?」
「いや、あのね。これには深い理由があるんだよ」
「体を伸ばしている時点で何があったのか大体想像つくんだが」
「フフフ……リビングのテーブルで寝落ちしました」
「だと思った」
「お兄ちゃんが買ってきたみかんがおいしかったから、アニメを消化しながら食べてたんだけど、いつのまにか寝てたんだよねこれが」
最近アニメをいろいろ見始めたらしい雫。
「……アニメ見てたのか」
「うん」
「夏休みの課題やったのか?」
「さすがの私でもそこはやったよ」
流石の私でも、と言っている時点で何かを自覚しているのは分かっているようだ。
「……一つか二つはやっていないと思っていた」
「羽計ちゃん。私ってそんなに信用ないの?」
「いや、バカすぎて終わらせるための時間が足りないと思っていた」
「答えついてないから丸コピできないもんね」
羽計も風香も何個かやっていないと思っていたようだ。
ていうか偏差値が大して高くもない普通科高校なんだから夏休みの宿題に答えくらいつけておいてもいいと思うのだが、何故か沖野宮高校はそんなことなかった。
「エイミーちゃんも?」
「正直なところそうですね」
味方がいない。いつものことだ。
「フッフッフ……甘いね。今時、問題集の答えなんて通販で買えるよ!」
剣の精鋭のメンバーは金持ちなのである。
いや、それとは関係ないか。
「で、通販で買って丸コピしたわけか」
「ちょっとくらいは正解から外してるよ」
「そうか」
「まあでも途中からわざと外すの面倒になったから全問正解なんだけどね!」
ゴミである。
とはいえ、大体そんなところだろうと思っていたので誰も反論しない。
とか何とか言っている間に、予鈴が鳴った。
「それじゃあまた後で」
「うん」
それぞれ席に座って、先生が来るのを待った。
★
「さて、ここで皆さんに重要なお知らせがあります」
先生がニコニコしながら言い始める。
すっごく楽しそうなので、本当に何かあるようだ。
「今から二週間、『魔戦士育成専門学校』に行って、合同で学ぶことになりました!」
なかなかぶっちゃけているが、秀星のクラスでは全員が魔戦士となるように裏で生徒会長がごにょごにょやったらしいので、そこは問題ない。
のだが、これは明らかに何かがある。と言うか期間が少々長い。
「一学期に皆さんがかなりやりすぎたので、ウザいと感じた魔戦高校の一部学生さんが圧力をかけてきました。皆さんが賛成すれば行くことになりますね」
裏をぶっちゃけすぎである。
それと同時に、明らかに面倒なことになりそうだと言わんばかりの表情になるクラス一同。
この空気では誰も行きたいとは言わない。
「ちなみに、向こうでは本格的な技術について学ぶことになるので、一般科目は不可能です。よって、皆さんが賛成すれば課題テストは免除、中間テストは便宜が図られることになりました」
「よっしゃああああああ!」
「俺達で鼻っ柱を叩き折ってやろうぜ!」
「専門で学んでたって負けないわよ!」
盛大に騒ぎ出す現金な生徒達。
ちなみに一番初めに騒いだのは雫だ。
というか、学びに行くという話だったが、一瞬で道場破りムードになった。
先生の事情説明の影響もあるだろうが。
(多分校長、金を積まれたな。生徒会長か、それとも風香の親からか……どっちなのかは知らんけど)
秀星はそんな感じだと思っていた。
チラッと風香を見ると苦笑している。
エイミーは首をかしげていた。
羽計は……頭痛がしているようで、頭を抑えて呆れている。
(そう言えば、羽計はそういう学校から来たんだったか)
因縁だとか、忘れられない部分があるのだろうか。
いずれにせよ、楽には終わらなさそうである。




