第二百九話
デイビットとミラベル。
この二人は『無難』である。
ミラベルの場合は前に出て、デイビットの場合は後ろにいるという違いはあるが、片方はエインズワース王国最高のSPであり、片方は若くして公安のトップに立った秀才。
当然ながら、王族とか日本から来たバカ以上に常套手段が分かっている。
ただし、セオリー通りとは言うが、呆れるほど隠れてばかりと言うわけではない。
最初はそうではなかったが、二回目以降はそんな感じだ。
そこまで強敵ではなかったということもあるが、戦闘としてではなく拠点防衛として持つべきものがなかった。
ここまでぬるま湯に浸かっているというのであれば、必要以上の警戒は必要ない。
そう言うわけで進んでいる訳だ。
要するに……特別説明することが無い。
秀星が実際に確認したところ、二人がいれば大丈夫な奴が敵だった。
まあ、そういうことで。
★
「すうう……ハッ!」
アレシアはレイピアを突く。
それだけで、拠点防衛をしているもの達の武器が破壊される。
とてもじゃないが突きだけで引き起こされている衝撃とは思えないが、アレシアは大体こんな感じだ。
「こ、このアマ、チョーシに乗ってんじゃねえぞ!」
「あ、おい。待て!」
銃を破壊されたものたちが、杖を構えて魔法を使おうと光らせる。
しかし、アレシアには関係ない。
唸るような速度でレイピアを突きだして、その杖も破壊する。
というか、ここまで破壊しまくって大丈夫なのか、回収作業はしなくていいのかとか、いろいろ疑問に思うかもしれないが、問題はない。
どうせ、秀星がなにか用意した方がいいものがある。
となると、途中でもったいないと思っても、方針の変更はしない方がいい、
「んなっ……」
杖を破壊された男性がうろたえるが、その間に突きをぶち込む。
少なくとも王女が狙ってはいけない場所に。
「はうっ……」
股間を抑えて悶絶する男性。
絶対に鍛えることができない急所に遠距離から叩きこまれて悶絶するその姿を見て、拠点隊員たちの顔に冷や汗が流れる。
あれは、ヤバいものだと。
「安心してください。斬撃属性を付与魔法で変更して打撃に変えていますから」
どちらにしても機能不全になるのではないだろうか。
というか別にそれでもいいとでも考えているような笑顔である。
「き……鬼畜め」
「もうひとつ安心してください。魔法技術が発達したエインズワース王国では、機能不全くらいは治せますからね」
(だからといって狙っていいと言う理由にはならない気が……王女として)
公安のメンバーも防衛隊員も気持ちは一つだった。
「ですから、おとなしく拘束されるのであれば、手荒な真似はしませんよ」
レイピアを構えながらそう言うアレシア。
青い顔になった隊員は、武器を床に降ろして手を上げた。
「さて、拘束しますか」
隊員たちが手錠を持って彼らの方に向かう。
皆おとなしい。さすがに股間は狙われたくない。
が、一人だけは違った。
袖にあった何かのスイッチを押して、小型のナイフをとりだす。
それを右手で掴んで、自分に手錠をはめようとした女性公安メンバーを人質に取ろうとした。
が……
「おい、こいつが殺されたくなけりゃア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアァァァァァァァ!」
慈悲も躊躇はなかった。
第一、人質と言うのは盾にしたうえで、銃やナイフで殺せるからこそ意味がある。
コントロールだけは抜群のアレシアに対して、人質を取れる可能性は低い。
まず本人の痛覚を麻痺させたうえでするべきである。
とはいえ……急所を普通に狙ってくる王女が相手だとは想像だにしなかっただろうが。
こうして、アレシアが挑む拠点は、男たちの悲痛な叫び声が響くことになる。
……まあ、さすがにファールカップが正式装備に加わることはないと思うが。というかレイピアだからあっても痛いし。




