第百九十九話
「何もなかったな」
「何もありませんでしたね」
秀星とリアンが担当するエリアを探索した。
一応、明らかに人が入っていたであろう痕跡と言うのは発見出来たのだが、それ以上のものは手に入らなかった。
「人為的な形跡がありましたけど、こう……はっきりしたものはほとんどありませんでしたね。どういうことなのでしょうか」
「この魔獣島の探索が進んでなくて情報が少ないということが前提になるが、一応、可能性はある」
「え、もう分かったのですか?」
「分かったわけじゃない。が、可能性はある。意図せずとも痕跡が消えやすい環境というものだ」
「……足跡を付けても、雨が降ったり風が吹いたりすると自然と消えて行く。みたいなことですか?」
「具体例としてはそんな感じだ。もともと痕跡が残りにくいことを重視した移動手段と言うものもあるから、魔獣島の環境構造と移動手段によっては残りにくい場合がある。それに、この島にあったその痕跡って言うのも、プロじゃないと発見できないレベルだった」
そのプロじゃないと発見できないレベルの痕跡を発見出来たのは、秀星の場合はアルテマセンスによって視力が向上しており、さらに見分ける力が高いということ。
何かを見つけようとした時、もともと広い視野を確保できるアルテマセンスを持つ秀星は、何かを注視することはない。
結果的に、その広い視野を十分に活用できる。
……とはいえ、ラノベくらいなら秒殺で読めるくらいの能力があるので、注視しながら見渡しても結果は変わらないのだが、注視するのは若干エネルギーを使うので、どうせしても意味が無いと分かってからはしなくなった。
リアンが分かったのは、秀星が戦闘中であっても痕跡を見つけるために周辺を観察しており、その記憶をメモリーバイトが奪ったからである。
周辺の状況と言うのはぶっちゃけリアン本人には関係ないのだが、『リアンが必要としている情報を得ている』としてメモリーバイトが影響範囲に巻き込んでいる。
そのことについては途中でリアンが説明した上で謝ったのだが、秀星は『メモリーバイトって言うスキル。オンオフができるってだけで基本は独立してるんだろ?なら制御ができなくても問題はない』という感じで意に介さなかった。
そもそも、口で説明する必要がないというのは秀星に取っても悪い話ではない。
ある意味でメモリーバイトに振り回されているリアンも、得られた情報から感覚的に察することはなれている。
ちなみに、制御ができない。とはいうが、そもそも秀星はとある可能性にたどり着いてから、リアンに対して必要以上に興味があるのだが、それは置いておくことにする。
「デイビットさんに進言した方がいいですか?」
「それが普通だな。それに、おそらく今回集められたメンバーは、そういった痕跡を見つけるのに適した人が多い。なおかつ、間引きするのにも十分な戦闘力を持った奴が集まってる。三十人っていうちょっと少ない人数だが、複数をこなせる奴が多いみたいだ」
「そうなんですか?」
「……パーティーを組まない弊害だな。もうちょっと観察眼は鍛えた方がいいぞ」
「分かりました」
「素直でよろしい。で、おそらく俺達が言わなくても、痕跡の情報は出て来るはずだ」
「秀星さんってすごいですね」
「観察眼のことを言ってるのか?それとも、痕跡云々の件をいってるのか?」
「両方です」
「観察眼はともかく、痕跡とか、そう言った部分は気を付けることが少しできれば誰にでも思いつくんだが……もうちょっと複雑なことやろうな。戦闘特化だが現場の人間なら必要になって来るぞ」
「……はい」
責めているわけではない。
だが、そう言った部分は必要なことだ。
まだ小さいころから意識して置けば、変な癖がつかないのであとで苦労しない。
「とはいえ、後は帰って報告するだけだな」
「デイビットさんは意外と点呼時にいないとうるさい性格なので早く戻った方がいいですね」
「え、アイツってそういうタイプの人間なの?」
秀星は意外に感じて思わず聞き返していた。
そんな感じで、一日目の現場確認は終了する。




