第百九十六話
隠しておきたいゆえに、人工衛星の情報のもとつくられた地図だろうが何だろうが、魔獣島は乗らないようになっている。
ただし、一部ではそう言った情報が乗った地図が流通しているものだ。
今回もそう言った地図を使って魔獣島まで行く。
それはそれなりに大きな船に揺られて到着した魔獣島。
秀星が一目見た感想としては『密林』だった。
かなり高さのある大樹がそこら中に存在する。
それゆえに、枝がある場所がそもそも高いので、木の上と木の下で別々の雰囲気があった。
「さて、私たちは長期間滞在する予定がないので、この船が実質的に拠点となる。最低でもこの船は死守してくれ」
(全長六十メートルのダイオウイカを相手にした後なのに船が拠点って勇気あるな)
メンバーに対して最重要事項を述べるデイビットに対して秀星は若干呆れていた。
「この船着き場……まあ、正直使い物にならないくらいボロボロになっているが、簡易的に修復して使えるようにする。地図でこの島をエリア分けしているから、私たちが今いるこの南エリアで間引きしてほしい。なお、討伐したモンスターは後で報告書にしてまとめるように。以上だ」
デイビットから必要なことは聞いた。
注意事項の説明が終わると、三十人ほどのメンバーが五人ずつくらいになって森の中に進んで行く。
「で、俺はお前と組むんだな。リアン」
「はい。よろしくお願いします」
背中に剣を吊ったリアンが頭を下げてきた。
チラッとデイビットを見ると、『頼んだ』と言いたそうな視線を向けてくる。
おそらく、リアンから言いだしたのだろう。
『自分の功績を認めてくれる共同作業』と言うものをしたことが無いのだ。
記憶を奪うということは多くの場合、過程をあやふやにする。
モンスターを倒したという『記録』そのものは残るのだから、誰が倒したのかは分かるはずだ。
だがリアンの場合、何故強いのか、どうやって倒したのかが誰にもわからないのだ。
電子機器に存在する記憶データも食べてしまうらしい。
とはいえ、そう言うことなら問題はない。
実力から判断すれば十分なものだ。
六十メートルのダイオウイカを剣一本で倒すからな。一体どんな化け物から記憶を食べてきたのやら。
特撮で巨大ヒーローとかでも四十メートルくらいなのに、明らかに異常である。
「なら、一緒に行くか」
というわけで、どんなモンスターをどれくらい倒すのか、というデータが入ったスマホをとりだして、画面をスクロールしていた。
南エリアには森だけではなく湖や草原、荒野などもあるため、モンスターの種類も多種多様だ。
かなり分類分けされているが、何かのゲームのモンスター図鑑を見ているような気分である。
ファンタジー系ではなくSFみたいなシステマチックフォーマットだが。
「……ああ。うん。確かにモンスターは多そうだな」
目に見える範囲と耳に聞こえる範囲で、すさまじいほどモンスターの多さを察した秀星。
「そう見たいですね」
リアンも剣を構えて、そして使ったのを理解した。
秀星も、常に保存箱から記憶を引き出せる設定にしておく。
「……思うんだが、そのスキルを使わずに戦うことはできないのか?」
「無理ですね。僕のスキルは、僕の体が覚えた感覚すらも食べてしまうので、スキルを使うごとに戦闘経験がなくなります。頭ではイメージ出来ても体がうまく動きません。普段の僕は、素人に毛が生えた程度ですから」
「あっそ」
そういわれると、確かにスキルを使わざるを得ないだろう。
「それから、一緒に戦っている時、モンスターは常に僕のことを忘れ続けるので、ターゲットが常に秀星さんに向かいますので、気を付けてください」
「それは自分で分かってるから安心しろ」
そのあたりを察しないほど戦闘経験がないわけではない。
「できる限りモンスターの素材を回収か……公安って予算少ないの?」
「エインズワース王国を本格的に狙うと、魔石がなかなか集められない先進国が黙ってないので……」
「なるほどな」
要するに、そういった国をはじめとした先進国が牽制球をバンバン投げまくっているということなのだろう。
最近はめちゃくちゃ盗塁されているが。点はとられてないけど。
「むっ」
木の上からじゃがいもが弾丸のような雰囲気で、機関銃でばらまいたかのように向かってくる。
タブレットを光らせて、即席で障壁を出現させた。
じゃがいもは障壁に弾かれてすべて落ちる。
「……じゃがいもだよな」
「あ。図鑑に載ってます」
秀星も確認する。
★
図鑑ナンバー……考えるの面倒。
名前・ガトリングじゃーが
脅威度・低い
・高確率で奇襲してくるじゃがいも。大体上の方から機関銃のように乱射してくる。
・めちゃくちゃ痛いけど怪我はしないくらいの威力。
・なぜ木の上の方に実っているのかは不明。
・ソラニンがないので軽く洗ってポテチにするとおいしい。
情報掲載者 アーロン・エインズワース
★
「何やってんだろうな」
「そうですね……秀星さん。知り合いなんですか?」
「……」
幽霊状態なのだが、その状態の人と会って知り合いと呼べるのかどうかいまいちよく分からない秀星。
「まあ、うん。お互いに知らない仲じゃない」
秀星はそう言うしかなかった。
「ポテチにするとおいしいって書いてますけど……」
「まあ、それは後だな」
「と言うよりあきらめましょう。障壁に当たってボロボロです」
「あ……」
少しやっちまった感がある秀星。
とはいえ、開き直るのは彼の得意分野。
「ま、過ぎたことは仕方がない。行くぞ」
「あ、はい」
進み始める秀星について来るリアン。
……年下キャラには何度か会うが、ルーカスと言いリアンと言い、何でこういう弟っぽい感じの雰囲気なのだろうかと考え始める秀星であった。




