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第百八十八話

「なんか……ほとぼり冷めたね」

「まあ、FTRだって、勝てる確信もないのに攻めてきたりしないだろ」


 秀星は半ばあきれながらそう言った。


「失敗を恐れているメンバーが一定数いるってことなのかな」

「それはどんな組織でも同じだと思うがな。成果主義ってそんなもんだろ」

「ふーむ……そういえば、秀星って成果主義についてどう思う?」

「どうした急に」

「いや、王だからね。時々、成果主義って言葉を考えることもあるんだよ」


 必要最低限のことは分かっているようだが、未熟者であることもまた事実。

 そして、格上の意見も取り入れたいと言うことなのだろうか。


「要するに、結果だけを見るっていうのが成果主義なんだが……その方法で何かを進める場合、一番重要なのは審査・評価する方だ」

「そうなの?」

「過程を重視しようと成果を重視しようと、多からず少なからず努力していることに変わりはない」


 秀星は一度そこで区切った。


「過程を重視する場合、それまでに何をしてきたのかという詳細なデータが公開される」

「どれほど頑張ってきたのかを証明する必要があるからね」

「そして、成果を重視する場合、本当に『何が出来たのか』『何が分かったのか』だけを見ることになる」


 どちらの方法であっても――まあほとんどは成果主義だろうが――世界と言うのは回っている。


「過程主義の欠点は、何を努力してきたのかが分かる反面、圧倒的に、外部の人間がそれを解析するための時間が足りない。最大の欠点は……成長力が低いってことだ」

「……あれ?そうかな」


 アースーが首をかしげる。

 過程主義だとなれば、それ故にデータの量も多くなるということだろう。

 ただし、最後の部分が分からないのだ。


「過程を重視するってことは、評価視点は何を頑張ったかと言うことになるが、それは言い換えるなら、何かすごいものを生み出す必要なんて全くないんだ。だって過程しか見ないんだからな。結果的に、新しいものが生まれない」


 頑張ることこそすごい。

 過程主義というのは要するにそれだけである。

 当然だが、何か画期的なものが生まれることはない。


「で、逆に成果主義っていうのは、何が分かったのか、何ができるようになったのかで判断する。結果だけしか見ない分、確認作業は過程を見るより楽で、研究者たちも成果を出すために必死になる」

「別に悪いようには聞こえないけどね」

「そうだな。だが、成果主義っていうのは、それを評価するものがどれほど視野が広いかにかかっている」


 成果を上げる。

 それが『何かのモンスターを倒す』だとか、そういった分かりやすい指標があるのなら話は早い。

 だが、研究者が新しい発明をした場合、それのメリット、デメリットを推察し、そしてとらなければならないリスクとリターンを推察したうえで考えて、『採用するかどうか』を判断しなければならない。


「ふーむ……」

「と、ここまで言っておいてなんだが、それらは知り合いが言っていただけで、俺自身が考えるものは違う」

「え。どういうこと?」

「俺が考えてるのは、『努力』も『結果』も、全て『成果』だってことだ」

「努力と結果が、成果」


 それはいい変えるならば、世の中は全て『成果主義』だと言っているようなものだ。

 だが、秀星はそれでいいと考える。


「評価する段階に入った時点で、それら二つは過去に出たデータの一つでしかない。努力した分はそのまま努力だが、成果って言うのは『努力の結晶』以外の何かになることはない」


 どれほど大きなものだろうと小さなものだろうと、それは変わらない。


「あと、責任の所在が違うな。過程を重視するなら、責任は努力してきたものにあるだろうし、成果を重視するなら、責任は評価・査定する側にある。まあ、テレビを見ていれば分かるように、どっちの主義であったとしても責任は努力した奴一択になるんだがな」

「秀星、いろいろ考えてるんだね」

「これでもいろいろ見てるからな」


 異世界での五年間の生活は甘くない。


「まとめるとどうなるの?」

「要するに、努力でも成果でも、評価されるだけの物があるかどうかってだけの話だ。ただし、評価・査定するのであれば、それに責任が生じる。開示された新技術なんて道具と一緒だ。無価値と決めつけるか、使い道を発見するか、それだけだろ」


 そして、と秀星は続ける。


「評価するだけでいい。そんな甘いことは言うなよ。アースー」

「まあ、もとよりそのつもりだけど……」


 いや、おそらく分かってはいない。


「まず自分が何を求めているのかを全て判断し、開示されて得られるであろう情報を網羅し、それがあることでこれから何が起こるのかを予測して判断する。賢い王でありたいって言うのなら、それくらいは当然だ」

「あ、いや、あの、まあ理解はできるけど、判断材料ってどれくらいの量になるの?」

「どんなものを評価するとしても、人が手を出せる範囲全て、動物にだけじゃなくて植物に対する影響もあるから関数レベルで増えるだろ」

「そんなことが出来るのかな」


 秀星はこの国に来てから、アースーに対して、初めて呆れを感じた。


「できるかできないかじゃない。やるしかないんだ。俺がさっき言ったことができなければ必ずどこかで踏み外す。忘れるなアースー。お前は『今』踏み出す『勇気』が必要な『勇者』じゃなくて、『未来』を決める『覚悟』が必要な『王』なんだ。俺から言わせてもらえば自覚が足りない」

「!」


 背負わなければならない。

 自分の言葉も、他人の成果も。

 失敗するだけならまだいい。

 挽回できるのなら、それを即座にするべきだ。

 挽回したうえで、本当にそれが正しい方向になるのかなど、人間にはわからないのだから。


「何でお前にこんなこと言うかわかってるか?お前が持つ神器。制限されていようがそれをフルに使えば、さっき言ったことだって十分許容範囲だからだ」


 舐めすぎである。

 そして、そんな甘えはできないのだ。

 なぜなら、敵に遭遇した時、自分の隙を見逃してくれる保障などないのだから。

 今すぐできる必要はない。

 だが、まだ余裕がある内に、必ずできるようにならなければならない。


 それだけやって、『王』というのは生まれるのだから。

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