第百七十一話
奇襲。
成功すれば主導権を握ることが可能で、失敗すると場の空気がしらける行為だ。
基本的には、敵に知られることなく目的を完遂することの重視し、それを行うために奇襲というものは存在する。
成功確率を引き上げるためにはどうすればいいのか。
答えは簡単。
なんの脈絡もなく、なんの伏線も考えず、『思い立ったが吉日』と言わんばかりに攻めることである。
「えぇ!?大使館が爆発した!?」
アースーは自室で驚愕する。
ちょっと疲れてきて休んでいたときに、そのような報告をメイドがやって来たのだ。
そりゃ驚く。
「はい。襲撃者と交戦中ですが、手強いそうです」
「わかった。すぐに行く」
任せることができる部下は少ない。
さらに言えば、秀星には別の襲撃地点を任せている。
そのため、アースーがでなければ対応できない。
ミラベルが神器持ちだが、警報の神器なので戦闘力は少々低い。
神器の特性として魔力は増えているが、それだけなのである。
「本当にしつこいな。それにしても爆発か。今まではそこまでしてなかったのに、急に本気を出してきたのかな……」
窓から飛び降りて空を飛ぶアースー。
ちなみに、何も知らない国民が見ても不思議に思わない程度には見慣れた光景である。
なので、遠くで起こった非常事態を知らないものからすれば『あ、王様飛んでる』と思われる程度なのだ。
ちなみに言うと先代のアーロンは単に飛ぶだけではなくワルツまで踊りだすし、ハイテンションのときはメイド付きだ。普段げっそりしているくせに元気である。それに比べるとアースーはまだ常識人だ。
「あ、あそこか……って派手にバラバラになってる」
すでに広範囲で封鎖されている。
関係のないものが入ってくることはない。
襲撃者は……一人のようだ。
「アイツ一人でこんなことに……注意する必要がありそうだね」
アースーは襲撃者の近くに降り立つと、念力を使って全ての火を消し、怪我しているものすべてを回復させ、さらに念力で下がらせる。
そこまでを一瞬でやりとげると、フードをまとった女がアースーの方を見た。
「へぇ。王様が直々にくるとはな」
飄々とした雰囲気で話し出す女。
アースー本人が来ても、大して警戒する様子はない。
そこまで自信があるのだろうか。
「まあ、王が変わったばかりですゴタゴタしてるんだ。だから、ちょっと邪魔しないでほしいね」
「そりゃ無理な話よぉ。こっちも上からの命令なんだから」
「上?」
「そうよ」
女はフードを取り払った。
長い紫色の髪を伸ばした妙齢の美女だ。
魔法使いのような風貌だ。スタイル抜群の上に露出が多いが。
アースーはそれよりも、女が持っているものが気になった。
ステッキと杖だ。
「まさか、あのレプリカたちのオリジナル?」
「そのとおりよぉ。勘のいい子は好きよ。あんたみたいなかわいい子は特にね」
「ふーん。まあ、僕みたいな外見の男が好きっていうだけならこの国では希少性はないね」
ホルモンバランスが大幅に狂っているエインズワース王国では、そういう男性を愛せない女性は海外に行くのだ。ただでさえ男が少ないのに、その男が女の子のような外見のものばかりだからである。身長も低いし。
「へぇ、それは美味しそうね」
「なるほど、君からすれば天国というわけだ。残念ながら、行ってもらうのは地獄だけどね」
アースーは真剣な顔つきになる。
それを見て、女もあとは魔法で語ることにしたようだ。
「私もあんたを殺すように命令されてるからね。首だけは持って帰るわよ?私はFTR精鋭班所属、もと『星明りの大地』リーダー。星宮明美。さあ、楽しみましょうね」
「エインズワース国王、アースー・エインズワースだよ。ミドルネームとかはなくて王様だけど本名は短いから、ちゃんと覚えていってね」
明美は杖とステッキを構えて、アースーは右手を前に出す。
次の瞬間……アースーは、その身を焼かれていた。




