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第百七十話

 今のところ。アーロンが言っていたような『大変なこと』は起きていない。

 襲撃事件は多数発生しているし、既に、少なくとも王都に存在する襲撃者たちのアジトは突き止めてバラバラにしている。

 無論、本来『アジトを発見する』と言うことそのものは難しいことだが、それは神器使いを相手にしない場合の話だ。

 基本的に、神器使いにかくれんぼは通用しない。

 全部鬼ごっこだ。鬼の速さがすごいが。


 襲撃が起こっているといっても、それをどうにかする難易度は高くはない。

 襲撃という事件は起こっている。

 だが、それすらも『嵐の前の静けさ』と秀星は考えていた。

 全然静かではないが、神器使いがひとたび犯罪組織として乗りだせばその時点で常識など変わる。


「魔法支援道具として圧倒的な性能を誇る杖と、一時的にアイテムを無力化……いや、神器のレプリカとなれば無力化するのはアイテムだけじゃない可能性もあるか」


 魔法を使って発展してきたエインズワース王国からすれば、いずれにせよ敵にまわすと大きな相手だ。

 わざわざ王が出てきて解決するだけの価値がある。

 使える私兵が少ないということもあるし、秀星が数百人分程度の動きならいつでもできるということもあるので今のところ問題にないっていないが。


「しかし、持ちだすレプリカは毎回同じ。ただ……襲撃事件を担当するものがそれなりに実力者というパターンが多いな」


 全ての襲撃でそうだったわけではない。

 ただ、アレシアに剣で勝つあの男のように、単に犯罪組織にかかわらせておくには惜しい人間も多くいた。

 それだけFTRの人材確保能力がすごいのだろうか。

 とはいえ、常に世界と言うのは闇が先行するもの。

 光がおいつくのは、その後だ。

 そして、まだ光はおいついていない。

 そう考えれば、実力を平均すると犯罪者側が多くなるのは必然だろう。


「ある程度の実力者に同じ装備を与えて、何度も襲撃させる……か」


 秀星としては、襲撃その物に目的があるようには見えない。

 何度も失敗している以上、それ以上の戦力を投入しなければそもそも成功の糸口すら見えないのは明白だ。

 それすらもわからない指揮官だという可能性も否定はできないが、それを考えると泥沼なので考えないことにするとして、装備を変える様子も、襲撃者の人数を増やすことも、絡め手を使って来ることもない。


「……レプリカの運用実験ってところか。こっちも倒しすぎたかな。そろそろデータが集まるには十分だろうな」


 秀星はそう考える。

 そしてデータが集まったとなれば……。


「もうそろそろ、本物の神器を持つ奴がやってくる」


 そして、調べているうちに導きだされたとある可能性。


「賢くないやつだといいなぁ。下手すると……俺ですら負ける」


 秀星にとっては、楽観視できないものだった。

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