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第百六十九話

「どういうことだ!なぜ私が何かしようとした時に、こんなことになっているんだ!」


 シュラウドとバカ四天王の五人は、一つの会議室に集まっていた。

 なお、シュラウドのみ豪華な椅子で、他の四人はランクを下げているようだ。

 一応王子を上とするだけの何かはあるようだ。


「馬の骨が暴れているだけのことですよ。このまま放っておけば、アースーが国王になったことでこの被害が出始めるようになったという噂が流れ始めます。時間の問題かと」


 アンドリュー・マーティン。

 四天王の四人の中では冷静かつ貴族としても上位であり、リーダーを務めている。

 年はジークフリードと変わらないようだが、狡猾さのある表情をしていた。


「その通り。時には待つことも必要。何故なら、必要なものはあらかた揃えています。後は、向こうが隙を見せるのを待つだけなのですから」


 まだ若い男が言った。

 名前はディラン・ロジャース。

 線の細い男性で、パッと見た感じでは活力と言うものが感じられない。

 だが、眼だけは利権を得るためなのがギラギラしている。


「フン!あんな若造が国政なんてうまくできるわけないでしょ。すぐに私たちのもとに戻って来るに決まってるわ」


 セレニティー・エヴァンス。

 まだ二十代半ばでドレスを身に纏った女性だ。

 傲慢というか高飛車というか、『相手が無能だから自分が上』という、思考を持つ女性だ。

 無論、まだ彼女が数々の利権を持っていた時代、なにかを彼女がしていたわけではない。自らが持っていた官僚団に押し付けていただけである。


「既に、少なくはない被害が王都に出ています。これが続けば、アースーが王になったことを疑問視するものが出てくるのは必然でしょう」


 エイデン・リチャードソン

 アンドリューに次ぐ年齢で貴族としてもアンドリューの次点となる男。

 アンドリューが冷静な表情なのに対して、エイデンはどこか自信にあふれた表情をしている。

 とはいえ、対した理由はないだろうが。


「五月蝿い!僕は早く王になりたいんだ!」


 この場にいる四人は『子供かお前は』と思ったが、実際十五歳なので子供といえばまあ子供である。

 ただ、英才教育を受けるべき立場の人間ではあるが、実は欠席も多いやんちゃ坊主であり、もし国王になったら国政を行う貴族たちの陰謀だと最初に思われる人間でもあるのだが。

 それでも、第三王子なので継承権はある。

 周りは、それを利用するだけなのだ。


「シュラウド様。時には、座して待つことも必要ですぞ。その方が、『余裕』というものを感じさせることが出来ます。焦っていると思われれば、それだけで弱みを握られますぞ」


 アンドリューがたしなめるように言う。


「……分かった」


 しぶしぶ引き下がるシュラウドだが、アンドリューも細かな催眠魔法を並列させており、ちょっとうるさくなってもこうするだけで黙ることを知っているのだ。

 面倒であることは否定しないが。


「それにしても、面倒なことになりましたね」

「でも、今の僕たちでは、あの集団に勝てないことも事実」

「ここは座して待ち、アースー側の戦力が疲弊したところを叩くのが最善でしょうな」


 それぞれ思うところはあるようだが、とりあえず利権が戻ればいいと思っているのだ。

 対して覇気はないので、作戦そのものもガバガバである。

 もっとも、それを指摘する者も、この場にはいない。


 ★


「あー……畳って気持ちいいー」

「ジーク様。大体時間が出来たときはごろごろしていますね」


 任務が終了し、本来のナイスミドルに戻ったジークフリート。

 メイドが鼻血を吹くほどの男前になっている訳だが、いろいろと疲れているので畳の上でごろごろしている時がある。

 ちなみに畳は日本から輸入してきたものだ。


「いや、そういうけどな。畳はスポンジのようなものが使われているからな。湿度が高い場所でもこうして涼しい感じになる。湿度が高く熱中症になりやすい環境でも快適なのだ」

「エアコンの温度を十八度に設定している人が何言ってるんだか……」


 マーカスとしては少々寒いレベルである。

 とはいえ、ジークフリートの太った時代はもっと気温を下げていたわけだが。


「いいだろ。誰も困らないんだし」

「困りませんが、少なくともこの部屋で寝たいとは思いませんね」

「私はもういろいろなものから解放されたからな」


 サムズアップするジークフリートに呆れるマーカス。


「はぁ……それはそれとして、あの四天王はいいのですか?」

「別にいいだろ。国政における『最低限必要』と言える部分を管轄していたから対した実力がなくても生き残っていただけだ。彼らの先代はもっと大きな部分も同時に引き受けていたが、彼らが当主になってから質が低下したよ」

「確か、あの四つの家を発掘したのはアーロン様でしたね」

「そういう人事に関してもすさまじかったからな父上。まあ、ああいった輩に負けないために今まで私が演技をしていたのだから、もう全て問題はないぞ!」


 ジークフリートがそう叫んだ時だった。

 メイドがノックをして、一枚の手紙をもって入ってきた。

 メイドがマーカスに手紙を渡す間、メイドはジークフリートを意図的に見ないようにしていた。


「……で、どんなことが書かれているんだ?」

「親展ですが」

「わかった」


 ジークフリートは封を開けて読んだ。


「……」

「どのような内容なのですか?」

「簡単に言えば、スカウトだな」

「スカウト?」

「どうやら、父上が貸しを作っているチームがいて、本来なら父上が引き受けるはずだったのだが、できなくなったので代わりに私に回ってきた。ということが追伸で父上の字で書かれている」

「ほう……相変わらず顔が広いですね」

「そうだな。というか、私としてはあまり行きたくないところだな……それにしても、差出人は日本人か?」

「そう見たいですね。すべて日本語ですし」

「……なあ、これって、父上が貸しを作ったからこうなっているんだよな」

「そのようですね」

「まだ父上が死んでから三か月たってないんだが、相続放棄できないのか?」

「無理だと思いますよ」

「ですよねー」


 手紙を握りつぶしたくなったジークフリートだが、こらえて溜息を吐いた。


「まだ、この国で残している仕事があるからな。それを片付けてからだ」


 すごくめんどくさそうな顔をするジークフリート。

 彼の苦労は、まだまだ続くようだ。

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