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第百六十六話

「シュラウド君がそんなことをねぇ……」


 アースーがブルーライトカットの眼鏡の位置を直しながら呟く。

 いろいろなところに行って散々な目にあっていたようだ。外国にも行っていたようなので当然と言える。


「どう思うんだ?」

「シュラウド君。学校での成績はいいんだけど、あの通り自信過剰なんだよね」

「実力はあるのか」

「まあ、王になれるかどうかは別問題だけど」

「戦闘力だけじゃどうにもならない世知辛い世の中だからな……」

「そういうものだよ」


 アースーはすでに、シュラウドという少年のことをなんとなくだが把握しているようだ。


「総合的に見てどんな人間なんだ?アイツ」

「小さなことを積み上げずに大きなことをやろうとするタイプだね」

「要するに奇策が好きってことか」

「そういうことだよ」

「王にはふさわしくないな」

「でしょ?」


 奇策や奥の手というものは使わないのが普通である。

 必要なものを必要なだけ揃えて、正攻法でいくのが普通なのだ。

 普段から真面目にやっておけば、いざという時に選択肢が多くなる。

 奇策や奥の手というのは、物語の主人公が英雄譚のために使うだけだ。


「まあ、奇策が好きと言っても、いざというときに覚悟を決める勇気なんてシュラウド君にはないけどね」

「覚悟を決める勇気ねぇ……」


 秀星は、そういう言い方は好きではない。

 とはいえ、ここでは関係のない話だ。


「どんな方法で来るんだろうな」

「さっぱりわからないね。情報少ないし」


 それもそうである。

 今の時点で断定できる程度のプランだったら逆に悲しい。


「まあでも、すでにいろいろと引き継ぎは終わってるし、重要な部分を僕が抱えるための作業も終わってる。どんな人材を引っ張り出してくるのかはわからないんだけど……」


 結局、わからないのだ。


 だからこそ、それは唐突に訪れる。


「陛下!」


 リビングにスーツ姿の女性が入ってきた。

 見た目はごく普通のSPのようだが、分類上は兵士らしい。

 だが、さすがにこのご時世に甲冑というわけにはいかないのでスーツ姿のようだが、魔法も組み合わせると甲冑よりも硬い。

 ちなみに男性ではなく女性である理由だが、まあなんというか、国王がアーロンとかアースーなので、女性の立候補者が多かったゆえにそうなっただけである。


「どうしたの?」

「市街で襲撃が発生しています!」

「!」


 アースーはメガネを畳んで胸ポケットに押し込んでから秀星をみる。


「……まだ、戦闘員としての役目は残ってるってことだな」

「必要な会話をすっ飛ばしている気がするけど、まとめるとそんな感じだよ」


 アースーも久しぶりに『嫌な予感』を感じ取ったようだ。

 そしてそれは、おそらく正しい。


「ここからが本番か」

「襲撃場所は何処?」

「中央広場と大使館です!」

「秀星、広場の方よろしく」


 そういうと、アースーは向かった。

 超能力で体を浮かせているのだろう。走るのと比べるとものすごいスピードだ。


「優秀な部下と莫大な資金がある王は暇でなければならないと俺は思うんだが……今はそんなことを言っている場合じゃないか」


 思わずため息は出そうになるのをこらえて、秀星も向かうことにした。

 どんなおもちゃを持ってきているのか、少し楽しみにしながら。

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