最終回
凡庸な日々を送った生徒ほど、『式』というものは退屈なものだ。
そもそも目新しさがなく、有象無象の自覚がある者ほど、少し通過点を過ぎたような、そんな感触があるだけだろう。
そう、特に『答辞』など、礼と感謝と決意をテーマとしたものだが……これもまた、『凡庸』にとって薄いものだ。
『答辞 例文』と入れて検索すれば、多くのページで注意点として『長々としない』『ユニークな表現を避ける』というものが挙げられるだろう。
……もちろん、凡庸には凡庸なりに、よく考えたら去年とほぼ同じ内容であったとしても、そこにかける『思い』はそれぞれであり、『式』をどう思うかは自由。
しかし、魔法社会になった今、世界が、新しい世代を迎えた。
何より、卒業して学校から去り、新しい『戦いの場』に向かう卒業性を送る場所で、在校生の気分が高まらないのは、モチベーションに大きくかかわる。
だからこそ……魔法学校になって一年目である昨年度は、副生徒会長を務めた古道英里が『答辞』を述べ、生徒会長を務めた鈴木宗一郎が『自由に思いを語る』という意味で『スピーチ』を行った。
卒業式という場では、異例中の異例。
しかし……魔法社会が表に出てきたばかりゆえに、『教育現場として異例中の異例』なのが沖野宮高校だ。
それくらいのことをさせても罰は当たらない。
というか、『それくらいのことをさせてもいい生徒』が、昨年度の鈴木宗一郎という男だった故に、この案は通った。
長く語っても伝わらないのは同じなので、原稿用紙一枚か二枚。
その程度の長さだが、『リハーサルの時点で行われると決まっていなかったスピーチ』を、宗一郎は述べた。
そして今年度は、八代風香が『答辞』を述べ、朝森秀星が『スピーチ』を行った。
朝森秀星という男の物語、その大きな流れがこの世界に帰ってきた、約三年前のあの日が始まりだとするなら……。
彼の物語は、八代風香を助け出したところから始まった。
それを知る者は少ないが、物語を締めくくる『卒業式』で、『答辞』を述べるならば、彼女がふさわしいという意見は多かったゆえに……。
そして、式の一週間前に存在を保てずに消えていった椿たちと、未来に帰っていった星乃からのお願いということもあるが。
とにかく、八代風香は、卒業式で『答辞』を述べて、秀星はスピーチを行った。
古道英里、鈴木宗一郎、八代風香、朝森秀星。
昨年度と今年度における重要なこの四名が、『式で全く泣かない』という、来年度以降の卒業生代表に強烈なプレッシャーを与えつつ……林道国枝と時島清磨がそのプレッシャーを感じ取りつつ……式は終わった。
まあ、秀星だってまともなことを言えたかどうかとなれば、そうでもない。
ヒントは……『父親が普段着』とだけ。
卒業式が終わり、体育館から去っていく卒業生たちは、これから何が待ち受けているのか。
魔法社会黎明期として、最先端に誰かが立ち続ける必要がある。
ただ、三年間の学校生活で、『諦め』と『ヤケクソ』……そして、『絶対的なリーダー』を得た彼らは、進めるはずだ。
体育館を出て、卒業生は友達や家族に会って……涙交じりに、次に進む。
神器使いの決戦は終わり、どこか熱がこもらない『平穏』を主人公は歩み……
その後ろから、彼についていくことに後悔しない者が続く。
――彼らの門出を祝って、良い風が吹いた。
神器を十個持って異世界から帰ってきたけど、現代もファンタジーだったので片手間に無双することにした。
—完—
一人の少年が異世界から帰ってきてから始まった物語は、一度、ここで終わりを迎える。
しかし……『少年』の物語は終わっても、まだ、『世界』の物語は終わらない。
時間というものは、基本的に『進むのが正常』だ。
その時間を止めようとすることは時間操作だ。異論は認めない。
砂は流れる。時間の中を流れる。
その砂を握る者は、『語るべき時間』を歩む。
――19年後。
「今日は沖野宮高校の入学式ですううう~~~っ!」
世界は白地図に似ている。物語は記載に似ている。
父親が作った白地図は、まだまだ白い部分を残しながらも、長い時間をかけて書かれた文字の確実性を薄れさせ、白く戻っていく。
だからこそ、長い間行っていない場所には、行く価値がある。
父親が作った白地図と全く同じ場所を歩んだとしても、絶対に違う色が出てくる。
そんな、始まり。
そんな、『大冒険』が、朗らかな笑顔と共に……
本日中に『あとがき』を投稿。それをもって、この小説は『完結設定』になります。




