第千三百九十七話
「出力が上がってきたな」
「かなり、測り切れてきたと思ったからだ。こっから上は、単純に火力勝負で行ける」
秀星とレルクスは剣を振る。
その衝撃だけで、周囲の黒ビルが吹き飛ぶが、そんなことはお構いなし。
まあ、この二人が戦えばそのようなことになるのは容易に想像できることだ。
「僕が君をだましているとは思わないのか?」
「変な調整を加えられないように俺の方でもいろいろ弄ってるさ。お前だって、別に物理法則を変えられるわけじゃないだろ」
「まあ、それはそうだが」
どのような知識を有していようと、法則まで弄れるわけではない。
それらに様々な拡張を加えることで誤魔化すことは可能だが、秀星は『真理』に近く、しかも『戦闘中』という条件であれば、十分未来予知レベルまで演算が可能である。
その上で、どのように『制限』を加えていくか。
もちろん、『秀星すら考えられない可能性』はとても多い。というか、秀星が見えているものなど、レルクスに比べれば、十秒先までの未来の分岐だろうと、10兆倍では表せないレベルだ。
レルクスは全て知っている。
ただ、その『別の未来』に関して、『秀星に通用するほどの影響』があるパターンは非常に少ない。多くて五つあればいい方だ。
レルクス相手に『接戦』を仕掛ける場合、そのすべては情報戦。
それを理解している秀星だからこそ、レルクスを相手に『制限』をかけられる。
「……はぁ、真理に近いか。わかっていたが面倒だな」
レルクスは愚痴る。
彼は全知ではあるが全能ではないため、『選びたくはないが選ばなければならない』という場面も多いのだ。
いや、神がかかわっていないような現象ならば、大体は暗躍するだけでどうにかなるのだが、神……いや、神器でもいいが、それがかかわっていると、往々にしてそのようなパターンはある。
秀星を相手にするということは、その『選びたくはないが選ばなければならない』パターンの一つということだ。
「しかし、剣しか使わないとは……僕に遠距離攻撃はほとんど通用しないが、君なら意味があることをできるんだろう?」
「そうだなぁ……そろそろ、混ぜた方が良いかもしれないな」
そういいながら、秀星は左手に黄金の拳銃と出現させて、左手の甲の傍に、七色に輝くキューブを出現させた。
それを見たレルクスはまた面倒と言いたそうな表情になるが……まあ、彼にしか、その本心は分からない。




