第千三百八十七話
アトムの戦い方は、基本的に『ザ・シンプル』だ。
圧倒的な才能は、単純……いや、『漠然とした力』だけではなく、様々な基礎をアトムに刻み、どこまでも緻密に彼の素質を組み上げていく。
その上で所有するのは、『重くて速い斬撃を叩き込む』という、これまたシンプルな性能を持つ最高神の神器、『剛速神剣タキオングラム』だ。
圧倒的な基礎、その基礎を限界まで引き出す才能。それをブーストする神器。
単純だ。非常に単純で、わかりにくい部分は何一つない。
だからこそ、小細工が何も通用しない。
全部まとめて上から叩き潰す。それを文字通りの意味で可能にする。
それがアトムの才能だ。
それが戦闘以外にも適用されるからこそ、まだ二十歳でありながら魔法省のナンバーツーとして、魔法省の業務の八割をこなす傍ら、作業の効率化のためにプログラムを作り、そしてそのプログラム完成によって得た空き時間を使って新しい仕事を入れている。
なんだか『一人ブラック企業』のような状態だが、アトムの肉体と精神の回復システムは異常値を叩き出すため、そこまでやっても過労にはならない。
とまぁ、挙げれば挙げるほど、ヤバいということが分かるのがアトムと言う男だ。
ただし。
そう、ここで『ただし』と言わせてもらう。
アトムは化け物だ。それは事実である。
化け物だが……彼は、神でも悪魔でもない。これもまた事実である。
「全然当たらんな」
「太刀筋を全て知っているからね。そりゃ当たらないさ」
「純粋なスペック。そういう意味でも、全知神と言えどそこまで高くはないはずだ。私は神祖も戦ったことがあるが、単純なスペックは彼らの方が高いはず」
「スペックが高いからと言って勝てるわけではないということは、君自身が証明している」
「……確かに」
「まあ、使っている剣の性能に関しては納得いかない部分もあると思うが」
「そうだな。少なくとも、素材に関しては見たこともない」
「だろうね」
レルクスは剣を見る。
アトムの攻撃を何度も受け止めているのに、傷一つない。
「この剣は、数千万年前にゼツヤが酒の席で作ったものだ。名前は『頑丈剣マジデオレナイ』と言う」
「正気か?」
「正気だと思うのなら病院に行った方が良い」
「……なるほど、確かにそうだ」
酒の席で思いついたような名前だ。
確かに、そんなこともあるだろう。多分。
「しかし、ここまで攻撃しても当たる気配もないのは初めてだ」
「安心するといい。僕に攻撃を当てる可能性は、決して0パーセントではない」
「……」
正直、あまり参考にならない。
0パーセントではないが、決して1パーセントでもないはずだ。
全てを知るレルクスが言うのだ。分母の大きさが凶悪過ぎる。
「……萎えてくるなぁ」
溜息をつくアトム。
彼としても、ここまでどうしようもないのは初めてだろう。
そして、少しだけ真剣な目つきで、レルクスを見る。
「……さて、栞が来ないことを祈るか」




