第千三百八十五話
「……ん? このタイミングで遭遇するとは……いや、遭遇とは言えないか」
「確かに。僕がすることは全て必然だ」
特別エリアで行動しているアトムだが、であった存在に対して、苦笑せざるをえなかった。
「……全知神レルクス。まさかこのタイミングで出会うとは思っていなかった」
「もう少し後だと考えていたようだが、君をここで、僕が足止めしておくことに意味がある」
「ほう、それは損な役だね」
アトムは『剛速神剣タキオングラム』を構える。
それに対して、レルクスは剣を出現させて構えた。
「……神器には見えないが」
「安心したまえ。君程度に神器を使うことはない」
「そうか」
アトムを相手にして『君程度』と断言する。
全知と言えど全能ではないことは事実だが、アトムとしても、『全知』という存在がどういう戦いをするのかはわからない。
「さて、どう立ち回ったものか」
「どう動いても構わない。少し、君をここから逃がすつもりはないが、逆に言えば倒すつもりも毛頭ない」
「なるほど、なら、好きにさせてもらおう」
アトムはレルクスに向かって突撃する。
そのまま真上から剣を振り下ろすが、レルクスはそれを簡単に受け止めた。
受け止めたレルクスは微動だにせず、表情にも変化はない。
「全知であっても全能ではないと聞いたが、この程度の攻撃なら簡単に止められると?」
「そういうことだ。まだ、君が知らない技術はたくさんある。単純な攻撃であれば高い性能を発揮するその神器であっても、別に変わらない」
「……」
神器が存在する以前から、神々は存在している。
創造神ゼツヤが作った神器のコアは、確かに天界に新しいルールをもたらしたと言っていい。
しかしそれは、天界の中で『平均レベル』の上昇はあったが、『最高レベル』に関しては影響がかなり少ないのだ。
神器があろうとなかろうと、妥協をしない神はいる。
「今回のイベントに参加する神々は、君が今まで遭遇し、戦うことになった者とは質が違う。確かに君は、努力せずともできる天才にして、努力することにも長けた天才だが、神々の歴史は長いぞ」
「……」
「才能でも努力でもなく、『真理』に近い秀星だからこそ、このレベルの『戦い』についていける」
「……」
「まあ、君がこのレベルにとどまっている最大の原因は、デスクワークが長いからということもあるが」
「だろうね」
素質だけで言えば、秀星など足元にも及ばない。
それがアトムだ。
しかしそんなアトムも、戦闘面と、国内の敵対勢力や他国への軍事脅迫……じゃなくて交渉のための手札の役割を秀星に一任し、自らは魔法省としてシステムの構築に集中している。
さすがにこれで最強になれるのなら、日本の社畜は全員オリンピックに行ける。
「……はぁ、仕方がない。やれるところまでやろうか」
全知の存在が足止めすると言っているのだ。
さすがに、アトムの我儘は通らないだろう。
面倒ではあるが、せっかく全知の存在が相手なのだ。
ある程度情報は抜きたい。
ただ、アトムにとって、交渉面でここまで理不尽な相手も初めてなので、先ほども彼が言った通り、『損な役』になったといったところ。
(実際に相手しないと分からない『嫌』な部分が多いな。はぁ……)




