第千三百八十四話
「あー、ごっつ眠いな。ラターグのやつ、容赦なくやりやがって……」
特別エリア全域が、ラターグの技によって『夜』になった。
ミーシェとの戦いがそこからすぐに終わったので長い時間ではなかったものの、その威力は強烈。
なんせ、神々の歴史としても黎明期から存在し、他の神から『名』を与えられたわけではなく、自らの実力で神に至り、そして今まで行動してきたのだ。
どれほどの強くなるための手段があったのだろうか。
全知神レルクスと言う、最強、かつ最悪のバランス調整的な存在を素早く認識することができ、邪魔されないように好き勝手やってきたゆえに、神々として、魔力というものを扱う存在として尋常ではない実力を持っている。
そんな存在が、『自らの本質の深い所を出す技』を使ったのだ。
短い時間ではあったが、もたらす影響は抜群。
「ミーシェがあのまま戦っていたらどうなってたのかね? まあ、本質が『枕』であるあの剣を、この技の適用下なのに本気でぶっ叩けるとは思えんが……ミーシェならわからんな」
創造神ゼツヤ。
今、愚痴や考察を述べている存在であり、神器という、神々の中に存在するひとつの『ルール』を作ったと言っても過言ではない男だ。
「ミーシェの睡眠欲は常人よりも低いから、影響は少ないだろう」
「うおぅ!」
バトルロイヤルというイベント中に『急に話しかけられる』というのは、なかなかヒヤッとさせられる。
「……レルクス。驚かすなよ」
「どこにいても『何でこんなところにいるんだ』と驚かれるから、驚かさないのは無理だ」
「なるほど」
過去から未来の全てに至るまで知っている存在だ。
そんな存在が近くにいるというのは確かに『なんでここに?』となる。
ただでさえ、このバトルロイヤルに参加するとなった時、天界では『え、アイツが出るの!?』と騒ぎになった。
……まあ、逆に言えば、全部わかっているゆえに突拍子もないことを急にする。というのは分かる話ではあるが。
「……その様子だと、俺と戦いに来たわけじゃないのか?」
「ああ。このイベントの結末を知っているからな。それを考えると、ポイントを獲得し続けてもあまり意味はない」
「……どういうことだ?」
イベントの招待状には、誰かを倒せば+2点。倒されたら-1点としか書かれていない。
いや、一応、『最終的には、行動できるのが範囲がかなり狭くなった特別エリアだけになる』とは記載されていたが、言うほど無茶苦茶なルールというわけでもない。
「仮に……いや、僕が仮といってもあまり意味はないが、あくまでも仮の話だ。自分以外の全ての参加者を一網打尽にできたら、その時点で自分に30ポイント入る。それは分かるな?」
「まあ、1人倒したら2ポイントだから、全員で16人だしそうなるわな。同じ理由で、短時間で同じ奴を15回高速討伐できても30ポイント入る」
「ああ」
「……まさか、『高速討伐を周回するような奴』が参加者の中にいるのか?」
「そういうことだ」
「……ふーむ、考えられるのは、秀星とか神々だが……いや、できるかそれ。でも、秀星が今動いていないのは、最終的にその高速周回ができるからってことを考えれば合理的か。残り時間が少なくなると、範囲は思いっきり狭くなるし」
「まあ『意味がない』といった理屈としてはそんなところだ」
今はそれぞれの初期エリアがあるのだが、残り時間が少なくなると、マップも狭くなる。
要するに倒された後の初期エリアもそれぞれ近くなるということであり、高速移動手段と理不尽な火力があれば、不可能というわけではない。
「……ポイントが手に入ったとしても意味がないなんてことはないよな。優勝賞品がもらえなくなる何かが発生するとか」
「そのようなことはない」
「そうか……」
いろいろ可能性はあるのだが、意味がない云々の後にレルクスが『獲得ポイント』に関する話をしているので、議論点としては『そこ』であるということは分かる。
ただ、ゼツヤとしては、秀星は確かに強いのだが、全員を倒せるかとなるとかなり微妙だ。
「……まあ、いずれ分かることだ。このイベントの『オチ』は、いろんな意味でひどいぞ」
「どんな感じでひどいんだ?」
「ある意味、『らしさ』があるとは言っておこう」
そういうと、レルクスは去っていった。
それ以上答える気はないということなのだろう。
「ふーむ……わからんな。まあいずれ分かるってのは事実か」
本当にわからないが、絶対に止めようという気概は感じられなかったので、『ヤバい』ということはなさそうだ。
ただ、若干『呆れ』が強いように思える。
「らしさ……ねぇ。高志あたりが何かやらかすってのがまあ固い方か? 何をするんだろうな。バールでイベントエリアを全破壊とか……ちょっと備えておくか」
レルクスが言ったことが覆ることはない。
とはいえ、身の振り方は考えておくべきだ。
きっと、酷いことになるので。




