第千三百八十二話
「……」
あなたは剣士には向いていない。
そういわれたラターグの心境としては、『まあそりゃそうだろ』と言ったものだ。
元々、彼は剣士など目指していない。
今ですら、頭の中の多くを占有するのは、ダラダラと眠りたい。という感情だ。
ミーシェ相手にそんな馬鹿なことを考えるような奴はラターグくらいのものだろう。
もちろん、ラターグはそんな自分が大好きな人間でもある。
今更揺らぐようなものでもない。
「……うーん。どうしたものかな」
向いている。向いていないの話でどうこうするような時代は昔に置いてきた。
そもそも今戦っているのは、『師匠として』どちらが優れているのか。という点。
「……仕方がない。この剣の真の姿を見せよう」
「え?」
ラターグのつぶやきに驚くミーシェ。
そしてラターグは、指をパチンと鳴らす。
それだけで……剣は、枕に変わった。
「……嘘」
「嘘じゃないよ。ついでに言えば、まだこの枕に、僕が込めていた剣としての魂が残ってる。それはミーシェも感じ取れるはずだ」
「……その通り」
「ただ現実を言えば、剣の真の姿はこれだ」
「……神器としては、あんな仰々しい名前がついてるのに」
「ん? 命名なんて人それぞれだよ。枕に剣って名前を付けるくらい、別に珍しいことじゃないさ」
「いやそれはない」
「僕も撤回するよ」
いくらなんでも暴論が過ぎた。
「……まあとにかく、本質なんてこんなものさ。さて……」
指をパチンと鳴らすと、再び剣になる。
「……さっきまでと、込められているものが同じ」
「その通り。さて、続きをやろうか」
剣を構えなおすラターグ。
ミーシェはいぶかしむ。
今のラターグは……剣を持ちながらも、剣士に見えない。
だが、剣士としての魂が確立していないと、ミーシェに剣術は通用しない。
何を企んでいるのかが、わからない。




