第千三百八十一話
「……これは、堕落旋風刃?」
ラターグと戦っているミーシェ。
高い火力と高い質を兼ね備えた圧倒的な威力を解放し続けているミーシェ。
それに対し、ラターグはあの手この手のフェイントや小細工を使って不死鳥への攻撃を回避しつつ、ミーシェに攻撃していた。
ただ、その攻撃方法を、ミーシェは『先ほど見た』気がするのだ。
技名を全く言わないのだが、やっている攻撃のほとんどが、『周囲の環境を自分にとって都合の良いものに変更し、その上で敵に風を起こしてぶつける』という、どこか『旋風刃』に似たものになっている。
「……あら? やっぱり気が付いたか」
「私に『剣術』を見せた時点で、暴かれるのは必然」
「それはそうだけど、はぁ、もうちょっとなんとかならないものかなぁ」
周囲の空気すらも自ら掌握し、空気抵抗すらも突破した剣術を行うのが旋風刃である。
そこを言うと、剣術と言うよりも風属性魔法が中心として構築された『戦闘術』のように感じられるが、ミーシェにとっては何を軸とするかなど関係ない。
剣を振っていれば、それは『剣術』だ。
どのような理屈を相手が持ってこようが、そもそも、存在する戦闘術に関して、そこに『剣術』が介在する要素のあるなしに関しては、『ミーシェの認識が絶対』である。
秀星であっても、その議論においてミーシェに勝つ手段を持たない。
「ふーむ。さっきまで椿が私と戦えていたから、今はそれを軸に戦っているということ?」
「まあ、言うほどそこから離れてないかもね」
「……」
それが全部というわけではない様だが、理由の一つであるということは分かった。
ただ……ミーシェとの戦いには『不要』なものだ。
ミーシェを相手に戦いに来たというのなら、その『意味』は、斬り捨てるに値する。
「ラターグ。一つ勘違いしている」
「ん?」
「私は剣術であれば、誰よりも使える」
「……」
ミーシェは剣を構えなおす。
本来、旋風刃は刀を使う。
それを言えば、ミーシェは少しズレて――
「……え、刀?」
ラターグの視覚に映るのは、歴とした刀だ。
先ほどまで剣を持っていたのに……。
「どうかしたの? 私は今、さっきから変わりなく『剣』を握っている……魂を込めすぎて、『刀』に見えた?」
「……」
「ラターグ。まだまだ詰めが甘い」
風が巻き起こる。
「堕落旋風刃・願望回帰・絶楽ノ月」
剣が振り下ろされた瞬間、ラターグが周囲にまとわせていた風が消えた。
不死鳥こそ消えていないものの、何か、ここからの展開に対して非常にまずい何かを感じる。
「……まだ、剣術が剣術になっていない頃の、創始者の『願い』……それを理解して初めて、剣術は何かを救うことができる」
「……剣術とは原則、何かを『救済』するためにある。それが君の持論だったかな」
「その通り」
ミーシェは頷く。
「ラターグ。君に剣術は向いていない」




