第千三百七十九話
自らの領域である『スロウス・ワールド第二層・不死鳥の祭壇』を展開し、不死鳥を背後に『神剣・堕落大権化』を構えるラターグ。
『剣術神祖』としてこの世の剣術の頂点に立ち、自らの神器『宝剣ルテシーア』を抜いたミーシェ。
依然として特殊性が高いのはラターグだが、それもミーシェの純粋且つ圧倒的な破壊力に対抗するためのそれ。
どちらが勝つのか、それは……ある意味、本人たち次第といったところか。
「ラターグ。最初に言っておく。覚悟するといい」
「ん?」
「私は剣術神祖。仮に何かを斬れなかったとして、それを剣のせいにするつもりはない」
「……だろうね」
剣の理に存在理由を捧げ、何者によっても汚されない精神性を持ち、剣を振るということにおいて鍛錬を続けているミーシェ。
そんな異常と言えるほどの存在であるゆえに、剣を握れば、魔力や神力などによる強化を施しつつ、そのスペックを限界まで引き出す剣術を繰り出す。
そこまで高くはない身長と、女性として魅力を感じさせるギリギリの起伏にとどまったその肢体は、ミーシェが長い年月の中で見出した『剣を振る上で見出した最高傑作』なのだろう。
神力が持つ絶対的な安定性により裏付けられた肉体を持ちながら、仮に何かを斬れなかったとして、それを剣のせいにできるほど、彼女の歩みは軽くも短くもない。
「そんな私が神器に願うのは、『私に適した剣』であるということ」
「なるほど、その宝剣は、君に最も適している……それはまた、恐ろしいことだ」
どれほど強い剣であっても、使いこなせなければ意味がない。
重さ、長さ、材質、特性、魂、強度……魔法的なモノに限らない、単純な『鉄の剣』であったとしても、そこには膨大な特徴が詰め込まれており、そこから何を見出せるかによって、『何を斬れるのか』が決まる。
ただ、剣が自らを超えていてもダメ。
理想よりも脆い剣は、振れば耐えられずに折れる。
理想よりも硬い剣は、振れば必要以上に『何か』に耐え、剣士にとっても剣にとってもストレスになる。
ほかのどの項目も、それと同じで、優れていても劣っていてもダメ。
『優劣』は関係なく、『適切』で決まるのだ。
「剣が、剣として優れているかではなく、『剣術』においてどうあるべきか……そんな、哲学めいたことを語るつもりはないかな」
「私としても、そこまで語るつもりはない」
「ん? ああ、そこから先は、君の『秘密』だったかな」
過去に十分な因縁がある様子の二人。
そこには、『原点』を呼べるなにかが話の中でこぼれたこともあるのだろう。
「なら、そこから先に踏み込むのはなおさらやめておこうか。この戦いは、師匠としてだ。『本音』なら興味はあるけど、『秘密』には興味ないね。ジャーナリストじゃあるまいし」
「そういうこと。というわけで、話は終わり」
ミーシェは、剣を上から下に振り下ろす。
それだけで、彼女の傍の特別エリアは、真っ二つになった。
しかし、斬撃の延長線上にいるラターグは、特に変化なく立っている。
「特殊性……まずはそれを斬ることにする」




