第千三百七十七話
灰色の炎を纏う不死鳥が出現する。
ただそれだけのことならば、圧倒的に高いレベルの参加者が揃っているこのイベントでは珍しいと言えるものではない。
いや、不死鳥を出すという技術そのものが難しくない。と言うのが正確なところだ。
よって、誰が出したのか。ということが問題になり……『ラターグ』が出したということが、重要と言えるのである。
「……それが、あなたが『技』として出すモンスターということ?」
「そうだね。若いころは移動のために世話になったもんだよ。最近は出してあげてないから……ちょっと拗ねてるけどね」
不死鳥を実際に見ると、ラターグの方を一度も見ようとしない。
いや、ミーシェが相手なのだから、確かに彼女から目を離すような余裕はないだろう。
それ以前の話として、ラターグに意識を向ける様子がないのだ。
それを指して『拗ねている』ということなのだろうか。
……ただ、ラターグは平気で億単位の年月で爆睡するようなゴミなので、そりゃ拗ねるのも当然と言えば当然だが。
「ふむ、どのような手段を使って来るのかわからないけど……斬ればいい」
ミーシェは剣を構えて、次の瞬間には、不死鳥の胴体を一刀両断していた。
「……ふむ、想定よりも脆い。スペックのリソースが頑丈さにない……ということは」
「そう……この不死鳥は、僕が『第二層』を解放している限り、何度でも再生できる」
「ふーむ……」
不死鳥を観察するミーシェ。
まあ、不死鳥と言うからには、その程度の再生能力は持っておいて不思議なことはない。
ただ、再生能力を優先した個体をここで出してくる意味はない。
(まだ何か固有の力が備わっているか、それとも……段階を踏まないと次に進めない力なのか……)
先ほどから、『第二層』と言っている。
ある意味、『第一層』である通常のスロウス・ワールドの表面に全てがあって『選ぶ』のではなく、スロウス・ワールドそのものの階層をまたぐとなった場合、違うのだろうか。
……いや、ラターグにとっての『力加減』の解釈の問題だろう。少なくともミーシェには関係のはない話だ。
「……それで、どうするの?」
「ああ。そうだねぇ……まあ多分……」
ラターグは、ほぼ起きていないような表情ながら、フフッと微笑む。
「多分、この力で、君には勝てると思うよ」




