第千三百七十四話
無駄がとことん省かれて、敵に攻撃するうえで最適解を実行するというラターグの剣術。
だらしない印象しかないが、それでも長い時間をかけてきただけのことはあるのか、寝ている時間が多いはずの剣は、かなり高いレベルの剣術を披露している。
それこそ、ミーシェと斬り合っても問題はないくらいに。
ただ……。
「……やってられんな」
ラターグは堕落神。かつそのだらしない性格ゆえに、『無駄』というものが嫌いじゃない。
彼にとって、無駄とは余裕や平穏と同義語であり、惰眠を貪るという普通の行動原理と合わせると、とても好まれるものなのだ。
ただ……そうであるがゆえに、好きな無駄と嫌いな無駄がある。
「……マジで全然当たらないな。どうしよっか」
「その程度で萎えていたら、この先どうしようもないよ?」
「別にどうしようもないくらいでもちょうどいいけどね。堕落神だし……はぁ。こればかりはどうしようもないな」
ミーシェ相手に剣だけでどうにかするのは、その剣がどれほど優れていたとしても、剣術がどれほど本人に適したものだとしても、無謀でしかない。
ミーシェとしても、一応戦いの体はなしているが、だからと言って別に特別な何かがあるわけでもない。
……基本的にテキトーなミーシェにとって、戦いと遊びの境界線は曖昧。ということもあるが、言い換えれば、今回のラターグとの剣舞も、遊びの延長線上ということになる。
「……はぁ、仕方がない」
ラターグは一気に体の力を抜くと、体の内側にある神力を解放する。
「ふう……『スロウス・ワールド』」
堕落……いや、名前からすると『怠惰』の力か。
それが広がっていく。
……のだが、ミーシェには当たっても、特に影響がないようだ。
「……あれ? 普通なら、もう立っていられないくらい睡魔がやってくると思うんだが……」
「この程度の力で、私の魂が、剣士であることを忘れることはない」
「うーん。ちょっと意味がよくわからんが……まあ、論文の発表会は趣味じゃないし、別にそれでもいいか」
「相手の魂を堕落で塗りつぶすって言うのも、よくわからない」
「……確かに。まあとりあえず……堕落の力がこもったこの領域で、やらせてもらおうか」




