第千三百七十三話
「……ふむ、驚いた」
「何が?」
ラターグVSミーシェ。
堕落神VS剣術神祖ともいえるこの戦いの構図だが、その戦いの序盤は、やはり『剣』である。
ただ、ミーシェ相手に剣を握ることがどれほど愚かなことなのかと、彼女を知る者たちの間では散々言われているものの、ラターグは自分の神剣を使って、ミーシェと戦っていた。
それは要するに、剣が、自らは剣であるという確信を持っており、ラターグの剣術にも魂が宿っているということ。
ミーシェを相手にする場合は、そのような条件がそろっていないと『資格』がないのと同じなので、ラターグもまた、剣士として相当高いレベルに達しているということだ。
「……正直、すぐに降参すると思っていた」
「あのね。これでも黎明期から存在する最高神の一人だよ? さすがに、ちょっとはそっとではブレないほどの自分の『軸』くらいはあるさ」
椿がミーシェ相手に戦えていたのは相当驚くことだ。
あの年齢であそこまでミーシェ相手に戦えるような存在はそうそういない。
とはいえ、ラターグはその存在年数が、文字通り圧倒的だ。彼らは『桁の数』で語るような領域である。
そんな状態で自分に軸がないとは、逆におかしい話だ。
「まあ僕の場合、めんどくさがり屋だからね。かなり効率的に、早く終わらせたいっていうのが剣に滲み出てるんだよ」
「なるほど、あなたらしい」
剣術と言えど、神が振るうものは、基本的にその人物の思想そのもの。
何かを司る神々であるが故の特性のような話であり、ラターグは『早く眠りたい。だから、効率よく終わらせてしまおう』というやり方なのだ。
それが剣に現れるということは、いずれそれは、剣術になる。
「剣士として自覚している。という部分に関してはちょっと納得いかないけど」
「まあ、そこは良いんじゃない? 別に論文の発表会なんて興味ないでしょ」
「確かに」
頷くミーシェだが……剣術の部分は簡単に答えた割に、剣士としての部分はあからさまにはぐらかしたのは、とりあえず突っ込まないことにした。
そもそも……剣で語ればわかることだ。
(ラターグの、剣士としてのルーツ……ふむ、なるほど……)
内心で考えるミーシェ。
(よくよく考えたら、別に興味ない)
ひどい。




