第千三百七十二話
「ラターグ。まさか。あなたがここまで逃げているとは知らなかった」
「……特別エリアの外から来たよね。君」
剣を握るミーシェと、両手をポケットに突っ込んだラターグが特別エリアの一角で遭遇する。
……のはいいのだが、ミーシェは特別エリアの外からやってきた。
「……もしかして、僕を追いかける時、逆側に走り去ったとか?」
このバトルフィールドだが、実は地球のような球体をしている。
まあ、オーストラリア大陸のような面積のそれが全員分与えられているという、ちょっと論理的整合性という視点でよくわからないフィールドなので、地球ではないことは明白だが、それはそれとして、地球のように一応球体なのだ。
というわけで、特別エリアを走り抜けて、その先にある誰かの初期エリアをぶっちぎって、そして広がる大海原を超えて、また見えてくる初期エリアを走り抜けて、また特別エリアに入れば、一応逆方向に爆走してもまたラターグと遭遇できる。
……馬鹿である。
そしてラターグとしては、おそらくそれが真実であるということに対して確信を抱くついでに、よくもまあこんな馬鹿げたことができるものだと感心する。
「とりあえず、何か企んでるっぽいから、邪魔しておく」
「そこまで僕が目障りかい? というか、このイベントは復活ありなんだから、僕を一度倒した程度ではどうにもならないよ?」
「私くらいになると、復活機能くらい斬り壊せる。転移の様子を見ていて確信した」
「ゲームのルールぶっ壊すなよ。チートじゃん……」
復活ありのルールの中、キャラ性能だけでそのルールを破壊する。
明らかにバグキャラであり、本来のルール上、プレイヤーが持ち合わせていない外部ツールを使わないといけないくらいのやつだ。
明らかにチートである。
「ラターグ。甘い。甘すぎる」
「……」
「甘すぎて美味しそう」
「何を言ってるんだ?」
思考回路バグってない? チートツール詰め込み過ぎて変なプログラムが実行されてないか?
「ふむ、今のはおかしかった」
「自覚があってよかった」
「とりあえず斬る」
「怖いっ!」
復活不可の宣言をされた後でそんなこと言う子は確かに怖い。
「……というか、椿ちゃんと戦ってたよね。椿ちゃんは今、初期エリアにいるの?」
「復活機能を斬っていないから復活してる」
「選べるんかい……」
まあ、剣術神祖であるミーシェが『斬り方を間違える』ということもないか。
「しゃーない。目の前に来ちゃったら、もう逃げられないか」
ラターグは溜息をつきつつ、『神剣・堕落大権化』を抜いた。
「ふむ、いきなり抜くとは予想外」
「君が相手なんだ。使ってる最高の武器は、あらかじめ抜いておいて損はない。ただ……できれば剣以外で作っておくべきだったなぁ」
どうやら、ミーシェの存在を知らない時にこの剣を作った様子のラターグ。
ミーシェがいると知っていれば、剣は流石に作っていなかっただろう。
まあ、後の祭りではあるが。




