第百三十七話
装甲車に乗って王宮に向かっているが、特に何もない。
というより、ネットをちらほら見ているとわかるのだが、アレシアが帰ってきたということのほかに、ミラベルが護衛についているという情報が幅広く乗っていた。
SNSを確認していると、そのミラベルの影響というものがかなり大きいのだとわかる。
秀星の予想では、ミラベルが所持しているのは『警報』の神器である。
警報といっても、神器であり、細かな設定も可能だろう。
何が起こるのか、どのようにヤバいのか、それがすべてわかる。
そして、そこからどうすればいいのかもわかるだろう。たとえわからなくとも、何が起こっているのかがわかれば経験でどうにかなる。
それはそれなりに殺伐としている雰囲気が細かなところで感じられるエインズワース王国だが、神器を所持するミラベルが護衛しているときは、襲撃するにしても意味がないのだ。
(まあ、ミラベルが使う超能力のほうも多分強いんだろうな)
魔法も超能力も、魔力を使うことに変わりはない。
魔力という言い方なので魔法にしか使えないと思っているものがそれなりに多く、超能力ではまた別のエネルギーを使っていると考えている者もいるのだが、そんなことはないし、そんなものはない。
そして、神器というのは使う魔力が膨大であり、それらを運用するため、使用者の魔力生成量を膨大なものにする。
戦闘に向いた超能力であれば、魔力量でゴリ押しすることも可能だ。
性格も真面目だろう。羽計と若干キャラがかぶっていると秀星も思ったくらいである。
ただ気になることが一つだけ。
「ミラベルって俺らと同年代だよな。この国って十六歳でも車運転できるのか?」
「私は特例で許可を得ている。日本と同じで、運転免許が取れるのは十八歳からだ」
「なるほど……」
「親日国というわけではないが、日本と同じような部分も多い」
「とはいえ、いろいろと違うところはありますけどね」
「たとえば?」
「特定の条件を満たせば一夫多妻も可能です」
「……」
秀星は絶句したが、ミラベルが何も言わないところを見ると本当なのだろう。
「この国は出生率が女性のほうが高いのですよ。国民の八割が女性ですから」
「多すぎるだろ……」
「それに加えて、性欲が強い方もいらっしゃいますからね。私がお父様を見るときは、いつも枯れ果てたような表情をしていました」
「奥さんたち頑張りすぎだろ……」
ちなみに、秀星の場合はそうはならない。
エリクサーブラッドによって、精液だっていくらでも行けるのだ。
何百回戦だろうと何千回戦だろうと秀星は元気です。
ていうか、鏡から見えるミラベルの顔が真っ赤なんだけど。
「つきましたよ」
ミラベルが表情を戻してそういうと、王宮に到着していた。
かなり厳重な門をくぐると、白亜の宮殿が見える。
(異世界でもヨーロッパ的な宮殿だとか城は見てきたから感動は薄いな。まあ一番気になるのは……すごく遠くからライフルを構えた少女が俺たちを狙っていることかね?あ、撃ってきた)
というわけで、アレシアを狙ったライフル弾をつかむと、弾丸を確認する。
「……ペイント弾?」
弾丸が当たると赤いペイントがすごい量出てくるあれだ。
殺傷能力はないが、ペイントはかなりべっとりつくのでなかなか取れないのである。
アレシアのほうを見ると微笑んでいた。
「なるほど、秀星さん。この弾を撃ってきた子は金髪を肩口で切りそろえていましたか?」
「え?ああ、そんな感じだったな」
「なるほど、あの子の悪戯癖は治りませんねぇ……後でお仕置きしておかないと」
そういって黒い笑みを浮かべるアレシア。
どうやら知り合い……というより妹だろうか。
もう一度見てみると、先ほどのライフルを持った少女が顔を青くしている。
……どうなるのだろうか。
「ん?」
アレシアがポケットからスマホを取り出すと、カシャっとシャッターが切れる音がした。
そして何も言わずに操作している。
「何をしているんだ?」
「私の顔を自撮りしてあの子のスマホに送っただけですよ」
怖いことをする姉である。
秀星はライフル少女のほうを見て、ただでさえ青かった顔が真っ白になり、近くにいたメイドに号泣しながら抱き着いているのを確認する。
メイドのほうは『んなこといわれてもしらねーよ』とでもいいたそうな表情だ。
おそらく彼女の専属なのだろう。
「フフフ、あの子の泣き叫ぶ顔が思い浮かぶようです」
(現在進行形で号泣しているからな)
思ったより相手にしてはいけない人間というのは身近にいるものである。
「あの、アレシア様?」
ミラベルが困惑している。
「いえいえ、何もありませんよ。それでは行きましょうか」
彼女は第一王女だ。主導権を握るのは別にかまわない。
構わないが……何か納得できない秀星。
ただ、それ以上に気になることがあったのでミラベルの近くに行って確認する。
「……そういえば、ミラベルはさっきの狙撃はわからなかったんだな」
「……気が付いているのか」
神器の話だろうな。
「ああ。俺も似たようなもんだからな」
「そうか。私のコレだが、殺傷力が高かったり、殺意があったりすればわかるのだが、そういったものがなかったりするとわかりにくいのだ。というより、そこまで設定していない。スキンシップまでいちいち反応していると、護衛対象が不快に感じるからな」
「なるほど……」
ようするに、悪戯はわからないということか。
アレシアからすればカモがネギを背負って自ら鍋の中に入り込んできたようなレベルで歓迎するような設定である。
腹は黒いからな。
ある意味、秀星以上に、悪乗り同盟に必要な才能を持っているかもしれない。




