第千三百六十九話
特別エリアにて発生する斬撃は、このレベルの参加者が多数存在する環境においても、恐ろしいと呼べる領域に達した。
「む~……」
「ふむ、眠りがどんどん深くなってる。動きにブレもなくなってきた。やっぱり、これくらいまでやった方が耐えてくれる」
椿とミーシェの剣舞は、一刀一刀が周囲の建物を容易に破壊している。
ただ、剣の速度は速い物ではなく、一撃がとても重いものになっている。
「私の『剣術の魂』に食らいついてくる……ふむ、面白い」
ミーシェの相手をする場合、そもそも、剣が『自分は剣である』という確信を持っていなければ、剣としての形を保つことはできない。
これは、ミーシェの正面に、剣士として立つ場合の最低条件だ。
ただ、ミーシェと『戦う』となれば、また上のハードルが存在する。
剣を持って立つ資格を得た後で、その『剣術』という、剣を振る者たちの主義・主張においても、魂が宿らなければならない。
そうでなければ剣が消滅してジエンドである。
そして、剣術というものがそもそもない剣筋に意味がなさなくなるため、必然的に『剣速』よりも『型』が重視される。
これが、あまり早くはない剣舞が繰り広げられることになった原因だ。
「よしよし、堕落の力は使っていない。剣術に集中してる……集中? ちょっと怪しい」
確かに。
今の椿を見て剣術に『集中』しているかどうかとなると、首をかしげるしかない。
だってほとんど寝てるもん。というかさっきミーシェ自身が『眠りが深くなってる』って言ったばかりだし。
「むー。まあ、戦えるだけマシ」
剣術神祖であるミーシェにとって、剣の腕を上げることは重要だろう。
しかし、それを試す相手がいない場合、何の意味もない。ただただ理不尽の称号が強固になるだけだ。
まあ別にそれを悪いとはしないミーシェだが、戦う相手がいた方が良いのは間違いない。
だからこそ、戦えるだけマシである。
……むしろ、ここまでのレベルに達していないと、『戦う』に値しないという意味でもある。
「よし、体があったまってきた。椿はどうだろう」
「……にゅ~」
「わからん」
確かにわからん。
「そろそろ、技も色々混ぜていく。ただ……なんか視線がウザい」
チラチラと周囲を時々見るミーシェ。
どうやら、隠れた観戦者がいるらしい。




