第千三百六十六話
椿VS栞における技の出力はすさまじく、もう使った時点で参加者の全員がその存在を感知していた。
当然のように、『寝ぼけてる椿ってこんなに強いの!?』となっている参加者も多いわけだが、まあ普段の椿を見ていれば当然の感想だろう。
強さという点で見れば、参加者の中では上に来るわけではない。むしろ、下の一位二位を争うほどだ。
もちろん、愛情というものが混ざらないとダメージがないという謎判定が存在するので戦いにくさはあるものの、椿本人の出力は高くないため、勝つのはやや面倒。負けることはほぼない。というのが『椿と戦う』ということに対する参加者……いや、椿を知る者にとっての考え方だろう。
寝ぼけているときの強さという点に関しても、普段の椿と比べて強いことを知っているものはいるが、だからと言って、『ここまで強い』とは思っていない。
……という段階になって、『そういや両親があの化け物だったな……』と謎の納得感を得ているものも多いわけだが。要するに原因は秀星ということにしよう。それで十分である。
「……ふむ、あれが、椿の実力」
ミーシェは、自分と高志が戦っているエリアに、ふああ~とあくびをしながら歩いてきた椿を見て呟いた。
「……まさか、あそこまで強かったとはなぁ……てか、なんだか面倒な組み合わせになってきたなこれ」
魔力を固めて作った剣を手に呆れた表情になる高志。
ただ……次の瞬間、その体に存在する障壁がすべて切断して消え去り、転移が始まった。
「……えっ?」
「邪魔」
主人公の父親だろうが『邪魔』を理由に滅多打ちにする。これがミーシェクオリティである。
というわけで、高志は初期エリアに転移した。
「……む~。ふああ~」
そして祖父が滅多打ちにされて転移しようと気にならないのがこの状態の椿クオリティである。
地獄か。
「その剣。ラターグが持っている剣に似てる……神器ではないことを除けば、ほぼ再現されている剣。それを振れるという時点でいろいろおかしい気もするけど……」
うーんうーんと唸りながら考えているミーシェ。
「……まあ、わからないし、いいか」
頭はよくない。
彼女ができるのは、誰よりも優れた技術で剣を振ることだけだ。
「なら、軽く……」
ミーシェは剣を構えて、そのまま突撃する。
そして、瞬き一つくらいの時間で接近して、剣を振り下ろした。
椿もそれに対して剣を構えて、ミーシェの剣を受け止める。
ただ、鍔迫り合いに持ち込もうとはせず、そのまま軽く弾いて距離を取った。
「ほう……」
剣の能力込みならともかく、純粋な剣術でミーシェを超えるものはいない。
そんな中で鍔迫り合いなどという手段を正面から取るような状態ではない様だ。
……普段の椿ならやりそうだが。
「思ったより反応速度もいい。これは面白い。ちょっと遊ぼう」




