第千三百六十四話
本来、海は青い。しかし、栞が出した海は白く染まった。
本来、炎は赤い。しかし、栞が出した炎は蒼く染まった。
『掌灯永洪』の強化形態、『掌灯永洪』は、質の強化が行われている。
魔戦士の戦いは、使う魔力技術に『安定性』が求められるため、単なる威力に大した意味はないからこそ、質があげることにした結果、作られた形態なのだろう。
そして、今も海に浮かんでいる大灯台大軍艦は、完全に鉄の色をしていたが、それすらも真っ白に染まり、灯台は蒼い炎を灯している。
まるで、白と蒼で作られた『聖域』とも呼べる場所になった。
「……椿。やっぱり、私のこれを相手にするときは、その剣を抜いたわね」
栞の視線の先で、椿は一本の剣を構えている。
『偽打ち・堕落大権化』
ラターグが使う神器、『神剣・堕落大権化』の偽物ということなのだろう。
「同じ神器は同じ世界に存在できない。だからこそ、ラターグが作った神器も一本だけ……だけど、あなたはラターグが『仕込んだ』時に、その剣を新しく、創造神ゼツヤから作ってもらった」
「……にゅ~」
「はぁ、力が抜けるわね」
栞は椿の腰を見る。
そこには、椿の刀、『弔丸・椿色』が納められているが、椿がそれを気にする様子はない。
邪魔と思うこともないが、使う様子もないといった感じだ。
「……確か、起きているときしか使えない……いや、起きているときは、その刀が使えない。が正解かしら」
『弔丸・椿色』は、いつ、どんな時でも感謝を忘れずに振るうことで、斬った相手の魂を天国に送ることができる刀。
普段の椿の精神性は、この刀を使うことに適しているし、この刀を振るうからこそ、椿は戦える。
罪悪感というものは人間は擦り切れていくものだが、何者であっても染めることができない椿の心は、何かを倒すという行為に対して罪悪感が減らない。
そのため、斬った後、相手が救われるための性能を持っている。
しかし……むにゃむにゃ言っている今は、その精神性が発揮されない。
「さて、はじめましょう」
栞は白い炎を纏う剣を手に、突撃した。
椿も寝ぼけまなこで剣を構える。
「む~……『堕落神風刃・絶技・八王脱落』」
「!」
八つの門が上に出現し、扉がすぐに砕け散る。
そして吹き荒れた風が椿の剣に集められて、巨大な風の剣になった。
「にゅ」
高速で振り下ろされたそれを剣ではじいて、栞は突撃する。
そのまま、椿の剣と栞の剣が衝突した。
「昔は鍔迫り合いに持ち込むことすらできなかったけど、この技まで使ってる今は、負けない」
「……む~」
まだまだむにゃむにゃ言っている椿。
その意思は……どんどん、眠りの底に深くなっている。
「ふああ……『堕落神風刃・絶技・八王脱落丸』」
今度は、剣を覆いつくすような形で膨大な風が集まる。
次の瞬間、栞を吹き飛ばそうとするほどの圧力が剣から放たれたが、栞は耐える。
「……よし、戦えるわね。ここからが本番よ」




