第千三百五十九話
椿VS栞。
これを聞いて、『いや、椿がぶっ倒されて終わるのでは?』という感想を抱くものがほとんどだろう。
スペック的にも、才能の塊であるアトムの血をしっかりと引き継いだ栞に対して、椿も弱くはないのだが、秀星と風香の娘と言うにしては『実力』という点では別次元感は……ないとは言わないが、栞と比べた場合は大したことはない。
そういう立ち位置に収まっている椿と栞が戦った場合、どちらが勝つのかと言われたら、まず栞が勝つというのは、客観的に見れば何の問題もない結論である。
「行きますよ栞!」
ビルから飛び降りて地面に降り立って剣を抜いた栞に対して、自らも刀を抜いて構える椿。
そのまま突撃して、「とりゃああああっ!」と刀を振り下ろす。
「……」
まあ、そんな攻撃が命中するかと言われたら、そんなことはない。
普通に剣で防いで弾く。
「むっ! てりゃああああっ!」
次々と斬撃を栞に向かって叩き込んでいく椿。
ただ、成長速度はともかくとして、基礎スペックにおいてアトムのそれを引き継いでいるとされる栞に対して、真正面から単純な攻撃をしても大体は通らない。
椿の攻撃を何度も防いで、斬撃と斬撃がぶつかり合う音がしばらく響く。
「むう! 全然当たらないです!」
ぴょんぴょんっと後ろに飛んで距離を取って、うがああっ! となる椿。
「私にその程度の斬撃なんて当たらないわ。勝負なら、もっと本気を出しなさい」
「ふむうう。しかたがないですね」
椿が刀を構えなおすと、周囲に八つの門が出現する。
そして、その門が一気に破壊されて、中から膨大な風が出現した。
その風は椿の刀を覆うように集まって、椿の刀を風で染めていく。
「ふうっ……」
風がおさまると、門があった穴は消え、風に染まった刀だけが残った。
「儀典神風刃・絶技・八王天命丸……持続性に特化した形態ですよ」
「ふむ……」
威力がほぼ絶技である八王天命と同じとするならば、超絶技には単純な威力でこれを上回る者も多い。
そちらも持続性が高い属性をしている。
それを使わないということは、使いやすさ。単純さなどを上げて、威力よりも持続性を優先しているということになる。
(……戦いが長引くと思っている。ということ?)
椿の真意など、誰にもわからない。
何も考えておらず、そしてそこに元気とアホがくっついたような存在が椿だ。
ただ……椿自身は、別に考えるということが嫌いではない。
「……何を企んでいるのか、見せてもらうわ」
右手の剣の刀身が燃えて、左手からは大量の水があふれだす。
掌灯永洪だ。
どうやら、栞としても、観察する気はあっても、ヘタな遠慮をする気はないらしい。




