第千三百五十八話
「あれれ!? 栞は一体どこにいるんですか!?」
顔をブンブン振ってあたりを見渡しつつ、特別エリアを走り回る椿。
その後ろからはセフィアが頭痛をこらえながらついていく。
なんというか、思っていた通りのことが起きているというか、椿が何かを探したとして、それが見つかる可能性ってそう高くないのだ。
……見つからなくても大体どうにかなるというのも事実であり、その事実があるからこそ、椿はテキトーであり、テキトーだからこそみんなから愛されているのだから……世の中わからない。
「セフィアさん。栞がどこにいるかわかりますか!?」
「……それなら、最初からあそこに」
「え?」
椿が指差したビルの屋上を見ると、そこには栞があくびをしながらアトムと一緒に椿を見ていた。
「栞ー! いるんだったら来てくださいよ! むっふー!」
「……」
栞は何も答えず、セフィアに『何で教えるの?』という視線を向けるだけである。
「……どうかしたのか?」
一応アトムは聞いた。
「……そうね。簡単に言うと、椿と一緒にいると、私は結構疲れる精神構造なのよ。だから、いてほしい時だけいてほしいってこと」
「なるほど」
良い意味でも悪い意味でも、椿は場の空気を自分一色で染める力がある。
栞もその美貌と才能から影響力は強いのだが、栞の場合は、自分の内側にある実力と言う力を発揮した場合のみ他社に影響を与えるのに対して、椿は雰囲気というか、存在そのものが他者に影響を与えるため、はっきり言って疲れるのだ。
遠くから見ている分には何も問題はない。
のだが、それは要するに常に一緒にいたいと思うほど栞の方が元気なわけではない。
……まあ、そんなことはお構いなしに堂々と連れ去っていくのが椿という少女の特性でもあるので、諦めている部分は多々あるのだが。
「栞―! 私と勝負です!」
刀を抜いて構える椿。
「……栞、何か因縁とかはあるのか? 相当戦いたそうな様子だが」
「あるわけないわ」
椿も栞も未来組ではあるが、別に敵対関係ということはない。
秀星の事情によっては何日も一緒のベッドで寝るだろう。
そういう関係なので、別に二人で戦うことに対して何か積極性を高める理由は存在しない。
「……ただ、行ってくるわ」
「ああ、行ってらっしゃい」
栞の方も脈絡のない思考になっているが、元々椿と付き合うというのなら、絶対に身につけなければならないスキルがある。
その名は『ヤケクソ』
要するに『もう知らん。なるようになれ』の精神で物事に挑むということだ。
椿の行動は気まぐれなので、その結果もマジで気まぐれ染みている。
そんな馬鹿と付き合うのに理路整然としたものなど不要だ。
常識も社会的通念も論理的整合性も、椿の前では塵も同然。
結局、戦うしかないのである。




