第千三百五十四話
「むにゅ~……ふあああ……」
セフィアのお菓子をお腹いっぱい食べた椿。
まあ、食ったら寝る。と言うほど単純な構造の体では普段ないはずだが、まあ眠くなってきたものは仕方がない。
「眠いです~……」
椿はそのまま、リビングから出て行き、寝室に向かって歩き出す。
一発でベッドがある場所を引き当ててドアを開けて中に入ると、ベッドの中にもぞもぞと入った。
万物加工のレシピブックという神器を持つ秀星が作ったベッド故に、そのふかふか具合や弾力はとても気持ちよく、すぐに眠り始める。
「む~……?」
誰かがベッドに入ってくる。
そして、椿を優しく抱きしめた。
「みゅー……セフィアさんの体、柔らかいです~」
椿もギュッと抱きしめた。
……セフィアは勝利を確信した。
★
「「いや、何の?」」
バトル中の風香と来夏はツッコミを入れた。
「……いつの間にかいなくなってると思ったら、秀星君のところにいたんだ」
「そうみてえだな。今はセフィアと一緒に寝てんのかね?」
どこか、ため息でもつきそうな表情でそんなことを言う二人。
勝負の最中にお腹いっぱいになった幼い子がメイドと一緒に就寝となれば、まあ、そう思うのも無理はない。
……無理がないというだけで、椿の場合は普通のことでもあるが。
「……なんだか萎えてきたぜ」
「そうだね。私もこの戦いは不毛だなって思えてきた」
お互いに恐ろしいほど決定打がない。
まあ、ギャグ補正というものの権化ともいえる存在に達している来夏が相手なのでそれも仕方のないことではあるが、神々がもつ法則すら通用しないとなると、風香としてはどうしようもないのだ。
そして、どうしようもないという点では来夏も同じ。
神祖の神器によって圧倒的な出力を持っている風香に対して、ダメージを与えるというのは難易度が高すぎるのだ。
ギャグ補正もどちらかと言うと『押しつけがましい』と言える性質ではあるが、どこか、攻撃に転じにくい。
……いや、ツッコミとしてならいくらでもぶっ叩ける可能性はあるが、あれって実質的にはほぼノーダメージだからな。
というわけで、マジで不毛である。
「近くで高志とミーシェが戦ってるな。どうする? このまま戦ってると巻き込まれかねんぞ」
「そうなるとマズいからね……」
神祖の神器を持っている風香と言えど、神祖の力そのものを使いこなすミーシェには到底かなわない。
距離を取るということに意味があるのかどうかもよくわからないのは事実だが……。
「場所を変えよう」
「まだやる気なのかよ……」
ただ、あまり、来夏に負けたくない風香である。




