第千三百五十二話
「師匠が動いたか。思ったより早いな」
「確かに、まだあとになると思っていました」
都市エリアで最も高い建物。
秀星は、今はルービックキューブのように形状が変化している魔法端末の神器、オールマジック・タブレットをガシャガシャと組み替えながら、セフィアと話していた。
「師匠が本気で暴れるとマジで全部壊れる可能性だってあるから、ほとぼりが冷めてきたあたりで来ると思ってたんだけど……アテが外れたな」
今回の参加者の中で、抜身の剣を握ったミーシェは、単純な攻撃力が最も高い。
防げるかどうかでいえば全知神レルクスは確定だが、今回の特別エリアを豆腐のようにぶった切れるのはミーシェくらいだろう。
レルクスだってそこまで火力は出ない。特殊性がフル開放したスキルを使えるだけで、身体能力そのものは最高神の中では低い方である。
そのレベルに達していながら、ほとんど何も考えていないゆえに軸がブレず、多少の交渉は通用しないという状態のミーシェ。
まだ専用の神器を握っていないが、バトルロイヤルで暴れるには少し早い。
「戦ってる相手は父さんか……ギャグ補正抜き。一体何を狙ってるんだろうな」
「そこもわかりませんね。それに、戦況も評価のしようがありません」
風香と来夏。
高志とミーシェ。
なかなか妙なマッチングである。
「そういや椿は?」
「椿様なら……」
セフィアが答えようとしたとき、リビングの空間にヒビが入った。
そのまま、強引に開かれて……。
「戦場から脱出ですうううっ! ……むっ。お父さんですうううっ!」
そう言って椿はセフィアに抱きついた。
秀星がいるのはまあ嬉しいが、抱きつくならセフィアということなのだろう。
「うへへ〜。セフィアさ〜ん」
セフィアの胸に顔を埋めて嬉しそうな椿。
「……戦場から脱出って、一体なにが起こってるんだ?」
「ミーシェさんが欲求不満そうな顔になっててまずいと思って逃げてきたんですよ!」
「ほう」
「近くにホームセンターがあったのでそこでもらいました!」
そう言ってバールを構える椿。
「はぁ……」
まあ要するに……。
「父さんじゃ荷が重かったってことか」
そうなの?
……まあ、それでもいいか。うん。




