第千三百五十話
「おじいちゃん。何をしてるんですか?」
「いや、まあ、その、どんな感じに入っていけばいいかなって思ってて」
「おじいちゃんって空気を読むこともあるんですね」
「失礼な」
建物に隠れるようにしてコソコソ見守っている高志を発見した様子の椿。
風香と来夏の邪魔にならないように移動しつつ、高志のところに行った。
「来夏さんたちに会わないんですか?」
「最初はあってもいいかなって思ってたんだが……これからの展開を考えるとそうでもなさそうだなって思えてきた」
「?」
高志にもいろいろ考えはあるようだが、椿にはわからない。
「それで、おじいちゃんはこれからどうするんですか?」
「そうだなぁ。とりあえず……ん?」
高志は振り向きつつ、まだ何もない空間に対して、裏拳を放つ。
そしてその拳は、丁度……『全てを切断しながら飛んできた三日月斬撃』に衝突し、斬撃を塵に変えた。
「……風香をどうするかとか言ってる暇がなくなったわ。誰も来ないってことに気が付いたっぽい」
「この頑丈な特別エリアの建物を、全てぶっ壊してますよ!? どうなってるんですか!?」
「このエリアの物を破壊するような『斬撃』を、隠す気もなく普通に使えるような奴はそういねえよ。オマケに……」
「おまけに?」
「切断された建物、全く倒れてねえし、何なら切れ目もなくなってる」
「お、おおお……」
巨大な斬撃だったはずで、それが飛んできたわけだが、その軌道にあったはずの建物は、全て『元通り』になっている。
当然だが、建物にそんな機能は備わっていない。
圧倒的に『薄い斬撃』が飛んできて、切断……いや、切断と言えるものなのかどうか怪しい部分はあるが、とにかくそんな斬撃が高志のところまで来たわけだ。
特殊性が高すぎて意味不明だが、確定していることは……これほど派手な斬撃なのに、音がほぼなかったというところだ。
だからこそ、椿も斬撃が飛んでくるのに全く気が付いていなかった。
「さて……それ相応にやる気になった神祖を相手すんのは初めてだぜ」
高志の前に姿を現したのは、剣術神祖ミーシェ。
しかも、抜身の剣を右手で握った状態である。
「……ふむ、やっぱり誰かが戦ってると思ってきてみたら、実際にいた」
「剣術神祖が気配を間違えるなんてこと、ほぼないと思うんだが……で、どうする? 俺と遊んでいくか?」
高志は右の手のひらに息をはーッと吐くと、そのまま構える。
すると、赤いオーラのようなものが高志の腕を覆いつくす。
やがてそれは右手に集中し、高志が強く握ると、一本の剣になった。
「……ふむ」
ミーシェは頷いた。
そして、持っている剣を構えなおした。
「剣術神祖である私を相手に、剣で、ギャグ補正を使わず、戦いを挑みに来る者は少ない。ちゃんと相手をする」




