第千三百四十九話
「はぁ、はぁ、間一髪だったぜ」
どうにかして十六本の帯から逃げて距離を取った来夏。
障壁がかなり削られており、来夏に攻撃して当たった部分がちゃんとダメージになっている。
(いったい何があったの?)
今使っている技に関して言えば、特殊性が高いことは理解している。
他の絶技はシンプルな構造で、風を何らかの形にして斬ったり押しつぶしたりといったものだが、この技は、風に『食らう』という属性を与えようとした結果、かなり複雑なのだ。
それが影響して、何かギャグ補正を突破することができたのかもしれないが、そうだとして、一体どういう原理なのかさっぱりわからない。
(特殊性が高い方が突破しやすいのかな)
というわけで、もう一度突撃する。
八本ずつ帯が延びる刀を振って、来夏に攻撃。
「……いやー。『それ』はダメだぜ」
来夏は大剣を真横に一閃。
それだけで、刀の十六本の帯は破壊されて消滅する。
「んなっ!?」
「一々何が通じるとか通じないとか、考えない方が良いぜ?」
そもそも、ギャグというものはどういうものなのかは決まっているが、最も重要なのは『滑稽さ』である。
どれほど笑えるのか、ばかばかしいのか。そういう部分がギャグという要素には求められるのだ。
そして、滑稽さなどというものは個人で異なるもの。
風香はギャグ補正というものを『なんかよくわからないけど別の物理法則を適用する事』だと思っているし、それそのものは正解だが、『解釈』が違っている。
物理法則というよりは、『表現』だ。
そして、ギャグというものは挟み込むタイミングも重要。
……とまあ、要するに、行き当たりばったりのように見えて、いろいろ構成の段階で組み込まれている。
それとはまったく関係のない、マジの『天然』は椿くらいのもの。だからこそ、『常に適用される』くらいのレベルになると、高い知性が求められるのだ。
何かが納得いかないが。
「仕方がないね。こうなったら、もう何も考えずに感覚で戦おう」
というわけで、風香は大きく深呼吸をして、そのまま突撃する。
「いや、それだといつもと同じなだけだぜ?」
来夏は大剣を振って、次々と風香の攻撃を捌いていく。
「……」
そしてそんな様子を、高志はずっと守っていた。
どうやら割り込むタイミングを計り切れずにいるらしい。




