第千三百四十六話
空間がひび割れる。
本当に『割れている』かのように、ビキッという音が聞こえるくらいの勢いで、本当に割れる。
そのような演出の場合、普通のRPGなら、ラスボスか、もしくは裏ボスが出てくるような演出となるだろう。
『空間』そのものが割れるという演出上のインパクトは圧倒的であり、『次元が違う法則』を感じさせるほどだ。
しかし。
そう、しかしである。
このバトルロイヤルにおいて、そんな演出が発生するということは、ある意味、ラスボスが来るよりも面倒なことになりかねない。
常識とか、社会的通念とか、論理的整合性とか、そういう、人間が社会を作り上げる前提を軽々を覆すような、そんな奴らが現れるということだ。
「あ、俺スマホ忘れてたわ。飲食店に行って取ってくる。来夏は先に行っててくれ」
「おう!」
……。
というわけで、高志は飲食店に自分のスマホを取りに行った。
食べるのに夢中で回収していなかったのか、まあそれはともかく、高志がひび割れた空間を通らないので、来夏が一人で通ることになる。
「おおっ! 思ったより重苦しい感じだな」
全てが黒い素材で作られた特別エリアは、それそのものが重い雰囲気を持っている。
もちろん、そういう部分に精神が左右されない連中も多い。
最もくだらない部分で言えば……まあ、黒というのは光を吸収しやすいため、夏とか建物の中は地獄だろうな。みたいなことを椿が考えていたりいなかったりする程度だろうか。
来夏もまあ素直な人間なので、黒い建物がズラッと並んでいたらそれは思う部分はあるだろうが、別に本心から語っているわけでもない。
「ふーむ、ここからどう動くかだなぁ。アトムは負けちまったし、ちょっと環境がどうなるかなって観察してみるのもおもしれえけど……ん?」
近くのビルから誰かが姿を現した。
「おおっ! やっぱりさっきの割れた空間は来夏さんがやったんですね!」
というわけで、椿ちゃん見参。
「椿がいるってことは……」
「私もいるってこと」
椿の後ろから、風香が歩いてきた。
二本の刀を鞘に納めて、椿に寄り添うように歩いている。
「いきなりお前たちに遭遇するたぁ、おもしれえ」
来夏は大剣を抜いた。
片手でブンブンと振り回して、構える。
それを見て、風香は二本の刀を抜いた。
「神祖の神器か……どれくらい強いか、見せてもらおうか。日本ならともかく、ここから思いっきりやれるんだろ?」
「もちろん。私も、どこまでやれるか知りたいし」
来夏が使っている大剣そのものは、今の日本なら、金を払えばほぼどこでも買えるものだ。
金を払ったからと言って入手できるわけではない神器と比べると、格に関しては比べるまでもない。
だが、この対戦カードを見て、『一方的な展開になる』と考えるものはいないだろう。
通常の人間の法則を超えた『諸星来夏』という女は、神が作ったルールなど、いくらでも覆す。
定まっていることは一つだけ。不真面目ではないが、真面目でもないということだけだ。




