第千三百四十四話
集中しなおした風香の実力は、アトムにとって、強いとか弱いというより、『面倒』である。
圧倒的な出力を誇る神祖の神器を使いながらも、アトムという才能の塊を相手するゆえに油断しない。
しかも、今の風香は調節のために戦うわけだが、戦う場所が特別エリアと言う頑丈さの権化のような空間のため、攻撃に遠慮がない。
もちろん、そんな調節中の風香には隙が多いので攻撃するタイミングは多いのだが……。
「……ほっ」
アトムが剣を振ると、三日月型の斬撃が飛んでいく。
だが、風香の傍で荒れ狂う風に巻き込まれて、砕けて散っていった。
「……はぁ、近づくのも面倒になった」
風の中心にいる風香の表情は、とても落ち着いているが、その奥で高い集中力を発揮していることを示しているかのよう。
穏やかさと威圧感が同時に放たれており、それが鋭くなるにつれて、風も荒々しさと殺傷性が上がって行く。
そして……何回か行う攻撃の内、本当に気合を入れている攻撃に関しては……わずかに、建造物に傷を入れている。
傷と言っても三センチほどの擦り傷のようなものではあるが、今まではそれすらも入らなかったのだ。
アトムも、全力を出したとしてここまでできるかどうかはわからない。
「……これほどの強さになるとは」
神祖の神器だけで至れるものなのか、それとも別の要因も混ざっているのか。
「お母さん凄いですううう! ふれー! ふれー! おかあさーん!」
……要因が分かった気がするアトムである。
……などと、集中を切らしたのが悪かったのだろうか。
「儀典双風刃・超絶技・蛇王の降臨」
二頭の巨大な風で出来た蛇が、アトムに向かって落ちてきた。
「ぐっ……しまっ……」
蛇の形をしているが、実態は風で、捕食とはならない。
ただ、純粋な圧力であり……基本が臨機応変である双風刃において、『絶技』に登録するほどの『格』だ。
そして、隙を突くという点において、もうすでに、戦いの中で風香はアトムから学んだ。
それ専用の調節も、既に終わっている。
アトムを覆っている障壁を食らいつくすほどの威力があることは明白であり、避けられない。
「……はぁ、君を相手に油断するものではないな」
初期エリアに転送される直前、そんなことを呟いたアトムは、そのまま消えていった。




