第千三百四十三話
「……そっちから出てくるとは思ってなかった」
「そうかな? とはいっても、別に大きな用事ではない。格付けを済ませるには早いだろう。と思っただけでね」
風香の前に姿を見せたのは、剛速神剣タキオングラムを構えるアトムだ。
それに対して、風香は世界旋風刀・無双荒神を構える。
「格付け? まだ私は済ませたつもりはないよ」
「あんな技を使っておいてよく言う」
「むっ! お母さんは未来でもあんな感じですよ!」
「……オーストラリアを丸ごと潰せる技をいつも使っているのか?」
「けっこうな頻度で使ってますよ」
「……」
未来の風香ってどういう神経をしているのだろうか。
(……いや、本当にダメなタイミングでばかりやっていたら、未来の私が止めるか)
アトムはそう思いなおして、とりあえず問題がないということにした。
そして、風香と目を合わせて……次の瞬間、風香の刀とアトムの剣は、お互いの位置の中心地点で火花を散らしていた。
「うえっ!? いつ動いたんですか!?」
全くそれを認識できなかった様子の椿。
だが、二人はそれをほぼ無視するような形で、鍔迫り合いになる。
「やはり、神祖の神器と言ったところだな」
「最高神の神器なら、魔力量が千倍になるっていう『仕様』みたいだけど、神祖の神器の場合、魔力量は『10万倍』になるみたいだね。その違いかも」
「なるほど、魔力で身体強化をしているわけか……」
『仕様』という言葉が、どこか創造神ゼツヤが作ったルールらしくて嫌な気分になったアトムだが、これ以上は何を言っても仕方がない。
元々、解決できない話題が上位陣の界隈では多いのだ。気にするだけ無駄である。
「さて……」
アトムが少し力を加えると、風香は一瞬、『前の前にあるものが何なのかわからなかった』
「……づっ」
風香は正面からくる圧力を捌いて、そのまま後退する。
「どうした? この程度で私を押し切れるとでも?」
「正直、甘かった」
風香の方が、出力的に考えれば強い。
しかし、攻撃というものは、攻撃ゆえに『隙』がある。
それを突けば、いくらでも捌くことはできる。防ぐことはできる。
そしてアトムは、それを突くことができる人間だ。
「正直、まだ、この武器を使った戦いになれてないんだよね。準備運動に突き合わせる気はなかったんだけど。いいかな」
「好きにするといい」
再び激突する斬撃。
本当に準備運動をしているのかどうかはともかく……『戦い』が、まだまともに始まっていないことも事実。
ただ、参加者全員の認識として、風香VSアトムという構図は、その決着によって大きく流れが変わる。それが、真実である。




