第千三百四十一話
風は吹くものだ。
そもそも何かの『変化』の末のものではなく、『動き』の延長線上にあるのが『風』だ。
空気の流れを風と呼ぶのだから、風は吹くモノ、流れるモノ。
ただ……八代風香がその戦場に立つ場合、風は、その意味を変える。
風が……嗤った。
「!?」
このバトルロイヤルの参加者一覧を見た時、誰を警戒するかは人それぞれ。
しかし……八代風香を警戒しないという考えは、彼らの中には存在しない。
だからこそ、それに気が付いたのは偶然ではない。
中央エリア『全域』を覆いつくすほどの風が、落ちてきた。
儀典双風刃・嘲う悪魔の詩
一つの技を使い終わり、両手に握る神祖の神器、『世界旋風刀・無双荒神』を鞘に納めた風香は、ふぅ、と息を吐いた。
「皆、私を警戒しすぎじゃないかな」
「お母さんはめっちゃ強いですからね!」
中央エリアは、どこもかしこも『黒い街』となっている。
秀星の初期エリアのような『都市』ともいえるのだが、やや黒い素材で作られたもので、重苦しさが感じられるデザインとなっており、内装などは存在しない。
ただ、エリアを押しつぶす勢い……このエリアも一応オーストラリア大陸程度は確保されているので、直径は大体3000キロを超える程度だろうか。それら全てを覆いつくすほどの影響範囲と、遠慮のなさを発揮するような怪物を相手に、『警戒しない』という手はない。
喧騒は止まり、全員が建物の中に隠れたようだ。
……それは言い換えれば、建物は先ほどの技……だけではなく、今回集まっている連中の技に耐えられるだけの頑丈さを備えているということでもある。
この時点で、この大地が、彼らが戦うための条件を備えているということと、やはりというか風香は容赦がないということを表している。
「……はぁ、幽月さんまで隠れちゃってるね」
坂神島では闘魂戦術を披露しており、それそのものは、風香もまだ習得できていない。
しかし……魂を扱う闘魂戦術を上回るほど、神力で作られた『神祖の神器』はその安定性が確保されている。
神器を振るうほどではない小競り合いなら闘魂戦術は強いが、何でもアリなら、魔力そのものを強化して神力に近づけようとする清磨とほぼ同等か。
とにかく、闘魂戦術を使えて、実際に強者である幽月もまた、『八代風香』は警戒するに値する。
「まあ、いっか。一人ずつ探して倒していこう。バトルロイヤルの時間制限は丸一日だけど。最初でかなり離されたからね」
「めっちゃ寝てましたからね!」
「最初は誰にしようかなぁ……」
エリアを歩く風香。
それについていく椿。
まるでピクニックにでも来たかのような感覚で歩き出す二人に、そこで戦っていた七人は雰囲気を支配されていた。




