第千三百三十五話
高志と来夏がいる商店街から見えた『火柱』
発生源が二人の位置からは地平線の向こうになるので誰が引き起こしたものなのかは二人にはわからなかったが、そこで戦いがあるのは事実だろう……。
というのは、常人の発想だ。
「やべえ! 事故った! 周囲の空気に神力が混ざりすぎだろ!」
巨大な山脈の頂上に建てられた三階建ての小屋。
……いや、事故によって小屋だったものから飛び出して、ススだらけになった創造神ゼツヤが悪態をついていた。
「チッ。ここで神力の増幅装置を作れたら楽だったんだけどなぁ……」
創造神というからには、単純な個人で持っておくようなアイテムだけではなく、私設だって作ることは可能だ。
それらを利用して何らかの設備……神力の増幅装置らしいが、確かに、安定性という点で抜群の性能を誇るそれに何らかの補正を加えることができれば、優位に進められる展開は多いだろう。
ただ、何かを『忘れていた』のか、事故につながったようだが。
「はぁ、最初から作り直しか……ん?」
残骸になった小屋を見ていたゼツヤだが、後ろを振り向く。
「……デカい火柱が出てきたから何かと思ってきたら、アンタのエリアだったのか」
「清磨君か。驚かせたようですまんね」
「いや、文字通りの意味で、何が起こっても不思議じゃないからな」
清磨は剣を構える。
「製造は時島グループかな?」
「ああ。俺の会社で作れる最強の剣だよ」
「ほう……」
赤い。
とにかく赤い剣だ。
ただ、炎属性という印象もない。
「……面白い剣だな」
ゼツヤが指を鳴らすと、そこに一本の黒い剣が出現した。
「それは……」
「俺の神器、『絶夜の創造神剣・ORASHION』だ。まあ、何度も進化を繰り返しているが、結局、最初の名前で呼び続けてる」
「本当の名前はもっと長いということか」
そういいながら、清磨は剣を引き絞るように構える。
そして、突きを放つ。
その刺突は魔力を帯びて、ゼツヤに向かって飛んでいった。
「剣士の間合いじゃねえよなぁ。まあ、別にいいけど」
ゼツヤは創造神剣を振ると、向かって来た刺突は塵となって消えた。
そして、自らも剣を振って、三日月のような斬撃を発生させる。
「ジャブのつもりか?」
清磨も剣を振って、その三日月の斬撃を叩き壊す。
「……神力を使った攻撃なのに、魔力だけでよく防げたな」
「魔力っていうのは実質、神力の『安定性を崩した物質』だろ? それなら、魔力そのものを俺の力で強化すれば、それに近いものになるさ」
「まるほど」
ゼツヤも、清磨が持つ『最高値移行』は知っている。
ただ……。
(確か、強化しようとする物が漠然としてると、強化値が落ちるって話だったよな)
言い換えれば、『五感強化』と『視覚強化』を比べると、五感強化の場合は、文字通り五感を強化できるのだが、視覚強化と比べると視力は上がらない。
(魔力についてかなり研究してるってことか。いや、『どう崩したのか』をかなり理解している。だからこそ、神力相手でも戦えるわけね……)
ゼツヤは微笑む。
「面白い。十分、『戦える』ってわけか」
「そう思ってくれると嬉しいね」
双方ともに、剣を構えなおす。
まともな『戦い』という意味では、バトルロイヤルが始まって、最初と言える。
……こいつら不真面目だな。




