第千三百三十一話
「……」
ミーシェはバトルロイヤルのステージに降り立ち、周囲に森があり、自分の左腰に剣が装備されていることを確認すると、とりあえずポケットに入れていたスマホを取り出す。
特定の時間に招待状を持っているとその位置に転送されるという仕様上、『スタッフから専用のスマホが支給される』という手順がないため、本人のスマホに専用アプリをインストールすることになっている。
剣術神祖であるミーシェだが、普段は天窓学園にいるし、現代日本ではスマホがほぼ必須なので手に入れている。
電源ボタンを押すと、九つの点が表示された。
ミーシェはそれらの点と点をいろいろつないでいく。
しかし、そのたびに『パターンが正しくありません』と表示された。
「……忘れた」
さすがである。大体ボーっとしているが、本当に彼女の頭の中はボーっとしているようだ。
「んー……」
きょろきょろと見渡す。
誰を倒しに行くとか、作戦とか、そういうものは一切存在しない。
それがミーシェのクオリティである。
「……あのあたりに誰かいる気がする」
秀星に用意されたステージがオーストラリア大陸くらいある。ということは、ミーシェに与えられた初期エリアもそれに匹敵するほど用意されているということだ。
ただ、神祖……そしてその中でも実力が高いミーシェであれば、なおかつ『戦いの場』であれば、そういうものはあまり関係ない。
「ふむ」
ミーシェは左腰から剣を抜き放つ。
今まで様々な戦いの場があったが、ミーシェに関しては、『剣を持っているとどうしようもないから、いかに剣を握らせないか』が重要だった。
食事の席ですらナイフが出てこないほどで、どれほど『剣を握ったミーシェが脅威に値するのか』ということを表していると言っていい。
「……シッ!」
上から下に振りぬく。
すると、三日月のような斬撃が剣から飛び出して、まっすぐと『誰かがいそう』と感じた方角を直進していく。
木々を切りながら進んでいき、ついに見えなくなった。
「……ふむ」
ミーシェは意味もなくうなずく。
……このあたりで、『僕の抱き枕がああぁぁぁぁ……』という悲痛な声が聞こえてきた気がしなくもないが、さすがに距離が離れすぎているとで幻聴だろう。
ミーシェはどうでもいいとばかりに他の方を向いた。
そして、再び剣を振って、斬撃を射出。
遂に見えなくなった。
「……」
剣を納める。
このあたりで、『ぐああああっ!』『んぎゃああっ! アトムさんがああああっ!』という声が聞こえてきた気がしなくもないが、距離が離れすぎているので幻聴だろう。
「……飽きた」
気まぐれにも限度があるよ。
「誰かが来るのを待つ」
近くにあった木を切って、切り株を椅子替わりにすると、目を閉じる。
どうやら本当に誰かが来るのを待つことにしたらしい。
「zzz……」
しかも意外と寝付くのが速い。
……なんなんだろうね。この状況。




