第千三百二十五話
椿からの『マクロードを何故作ったのか』という質問。
それに対するゼツヤの最初の反応は、苦笑だった。
「……俺がマクロードを作った理由か」
「え、マクロードって……アイツ、お前が作った存在なのか?」
高志はバクバクと食べる手を止めずに驚いている様子である。
そんなに気にしてないね。
「ていうか、人間を作るって、マジでできるんだな」
「厳密には、人間と同じような配置で、人間と同じような物質が並べられているってだけだがな。ただ、創造神である俺くらいのレベルに達すると、その完成度も高いってだけだ」
「へぇ。なんていうか、創造神って『世界そのもの』を作るのがフィクションでは一般的で、人間はそこで勝手に生まれたって感じになると思ってたけど、ゼツヤって人間も作れるんだな」
倫理的にどうなのかという問題ではない。
そもそもそういう話は、通常の過程を無視して人間を作るという手段が困難である場合にのみ議論されるべきである。
ただ単純に、ゼツヤにとっては人間を作るという行為そのものが、あまりにも簡単すぎるのだ。
そのあたりを理解しているのか、それともそのあたりの感性にどこかズレがあるのか、『そういう点』の質問は全て蹴り飛ばした話に見えなくもない。
「……まあ、神だからな。大きな括りで言えば、神なんて人間を作れてナンボみたいなところあるだろ?」
「大雑把に言えばまあそんなところもあるわな……」
「で、マクロードを作った理由だったか? 簡単に言えば、それに関しては全知神レルクスから頼まれたことだ」
「そっちも頼まれて作ったんですね」
「当時は全知って言うのがどういう『概念』なのかよくわかってない頃だったからなぁ……変に恐れてたって言うのはあると思うが、とにかく機嫌を損ねないようにっていうこと聞いてた」
創造神でも全知神は『よくわからない』のだ。
というか、過去も未来も全て知っている存在と言うのがどういうものなのかが直観的にイメージできないのである。
だからこそ、余計に恐れるといったところか。
……まあ結局のところ、『調子に乗らなければあまり問題はない』というのが、全知神レルクスとの距離の取り方であることは事実といったもので、言ってしまえば『大した事』ではない。
「秀星にとっては、持っている神器も、ラスボスも、お前が作ったってことになるわけか。まあなんていうか……よくある話だな」
「そう。よくある話だ」
ゼツヤは創造神だ。神器のコアという、ある種のルールすらもこの世に作り出すような存在である。
そんな存在が『何にも影響しない』ということはあり得ないし、きっと何かに関わっている。
全知神レルクスにとっては全て必然だろう。
ただ、あくまでも『それぞれ』で言えば、まだ偶然ともいえるものだ。
要するに……神器のコアを作ったことも、マクロードを作ったことも、ゼツヤにとっては大したことではないのである。
そしてそれが、『神』というスケールの視点を理解する上で、一つの指標ともいえる。
そう、よくある話なのだ。




