第千三百二十四話
「……嫌な予感がすると思ったら、やっぱりお前たちか」
沖野宮高校と天窓学園の間。
そういう位置に存在する、魔法省公認『魔戦士専用装備取り扱い店』である『オラシオン九重市支部』
そこでは、アイボリーのロングコートを着た青年が、来客に対して文句を言いたそうにしていた。
……まあ、その来客と言うのは、高志、来夏、椿、沙耶の四人だったりするのだが。
ちなみに、沙耶とどこで合流したのかに関してだが、沙耶はずっと野球をやっているときも外野手としてパフェを貪りつくしていたので、『最初からいた』と言って差し支えはない。
「むっふっふー! ここにゼツヤさんがいるという話を聞いていましたからね。そりゃ行きますよ!」
「誰から聞いたんだ?」
「ラターグさんですよ」
「……バトルロイヤル中に集中砲火してやる」
白髪に見えなくもないアイボリーの短髪を弄りながらため息をついている。
「で、何しに来たんだ?」
「特に何も用事はないですよ?」
「……」
そういやそういう子だったな。と思い出したゼツヤ。
「あ。こういうタイミングで聞くのはアレだと思うんだけどよ」
「ん?」
「なんで、秀星専用に、神器を十個作ったんだ?」
来夏の直球な質問。
それに対し、ゼツヤは頬を動かしたが、それ以上の動揺はない。
「……サラさんに言われてな。アイテムマスターを『継承』しているのなら好き勝手に使えるからって、自由に作っただけだよ」
「へぇ、お父さんが作った神器を作ったのがゼツヤさんだとは知っていましたが、おばあちゃんの依頼だったんですね!」
秀星の母親である転移神サラ。
今は朝森沙羅として、三人の子供がいる身ではあるが、どうやら過去にゼツヤと因縁があるらしい。
「ほー……あ、すまん。パフェかなんか作ってくれるか? 沙耶がなんか禁断症状が出てきそうだ」
「う……うー……ううっ……う……」
「確かに見たこともない感じになってるな」
ゼツヤは指をパチンと鳴らす。
すると、沙耶の傍に大量のパフェが出現!
「うー!」
目を輝かせて飛びつく沙耶。
そのままバクバク……というより、ズゾゾゾッ! と次々と腹にぶち込んでいく。
「気に入ってるみたいで何よりだ」
「うっ!うううううっ!ううううううう!!!!!!」
「……なんか、すげえことになってんな」
「ちょっと一口……」
高志がパフェに突き刺さっている細いビスケットを抜き取って、半分がチョコに覆われたそれを食べる。
「……うめえええええええええええっ! なんだこれ! この世のものとは思えないほど美味いぞ!」
「そこまでか!?」
「私も食べるですううううっ!」
「……好きにしろ」
再び指を鳴らすと、パフェなどの甘い物に限らず、大量の料理が出てきた。
興奮した様子で全員が食べ始める。
「すげえな。めちゃくちゃうまい!」
「秀星の料理も、世界樹の果実が混じったものがあって相当うめえけど、それをはるかに超えたレベルだな。天界にはこんなうまいもんがあるのか?」
「……材料は全部。ここから一キロくらいのところにある大型のスーパーだぞ」
「マジで!?」
「それでこんなに美味いもんが作れるのか……」
バクバクむしゃむしゃと平らげていく。
「しかし、創造神っていうのはやっぱり伊達じゃねえってことか」
「当然だ」
全ての神器のコアを作ったのは彼である。
そのコアを使って神器として仕上げた数はそう多くはないだろうが、いずれにせよ、この次元の中で一つのルールを作ったと言っても過言ではない。
そしてそんな彼にしたって、全知神レルクスに関しては無視することはできないので、好き勝手することはできないだろう。
言い換えれば、神器のコアにしても、まだ彼にとっては『本気ではない』可能性もある。
それほどの技術力を備えている『創造神』が、伊達なわけがない。
「げふっ、しっかし、料理一つとってもこれほどなんて……もしかして、神器を超える神器とか、作れたりするのか?」
高志の中で、『今存在している神器』というものが、『神器という概念にとっても限界ではないのではないか』という疑問が出てきたようだ。
その次元の高さを感じさせるほどの料理とは……いや、それが『創造神』というものなのだろう。
「もちろん作れる。というか、ラターグが神になるよりも前だったかな。一度作ったことがある」
「へぇ……どんなアイテムなんだ?」
「まあ、当時の俺基準での、『簡単に作った計算機』みたいなもんだが、ある時、全知神レルクスから作るのを止められたんだよなぁ」
「ラターグが神になるよりも前……一体、何千億年前なんだ?」
「俺もよく覚えてないが、まあそれよりも桁が全然足りないくらい前だな」
なるほどわからん。
「ふーむ……その神器って、要するに、『格』として今の神器よりも上ってことか?」
「そういうことだな」
最も安定したものが、この世で強い。
秀星レベルでそれらのことを研究していればその結論に達しやすいが、魔力に対してその視点を向けると、『神力』が一番安定している。
神器と言うのは神力で出来ているもので、当然その安定性は抜群だが、『使う神力の密度』によってはそれよりも上の性能の物を作れるのだろう。
「神器を超えた神器ねぇ……バトルロイヤルではさすがに出てこないか?」
過去に全知神レルクスに止められたとはいえ、例外的に、刹那的にというものはいくらでも考えられる。
その点で、バトルロイヤルではどうなのかというのが高志の内心だろう。
「さあ……まあ、使える可能性は断然低いだろうな。バトルロイヤルを行うのは地球上だが、一定以上の神力の性能を持つ物体を扱おうとすると、全知神レルクスが止めに来る」
「うーん。なるほど……なんていうか、止めに来るってだけで、別に禁止されてるわけではないんだよな」
「禁止はされていない。そういう法律は天界にもない。というか、過去から未来まで全て知っている存在を前提とした法律というものは、人間には扱えないだろう」
「だろうな」
完全でないが、ほぼ完全であるということを認めつつ運用する。
それが人間の限界であり、人間が世界に対してどのような主張をするのかの立場のようなものだ。
しかも、全知神レルクス本体は、全知ではあるが全能ではない。
『全知であるが故の不備』は必ず出てくる。
「とはいえ、アイツが考えている中で、好き勝手に動いてほしくない奴は大体決まっている。その中に俺が含まれていることは事実だろうな」
「へぇ。そのリストの中には俺って入ってるのかね?」
「多分、入っていないだろうな」
「あれ、そうか? 結構好き勝手やってきたはずなんだが」
「君はそこまで馬鹿じゃない」
「そうかい……」
原則として『確信犯』なのが高志だ。そういう結論に達するものが多くても不思議なことはない。
「……ところで、多分、ここに来ることを決めたのは椿だと思うんだが、本当に何も用事はないのか?」
「む?」
チーズがたっぷりと盛られた牛丼をもぎゅもぎゅ食べながら、椿はゼツヤの方を向いた。
そして、ゴクンッと飲み込んだ。
「あ、そういえば一つ、聞きたいことがありました」
「言ってみな」
ゼツヤは大したことはないんだろうな。といった様子であくびをした。
「ゼツヤさんが神になって初めて作った『とあるアイテム』……それに肉体を与えてマクラさんを作ったのは、何故ですか?」




