第千三百十六話
椿の電撃訪問。
このフレーズを聞いて、『わっひょい!』となる人間は多い。
可愛いし、撫ででも抱きしめても嬉しそうにするし、そうして遊んでいる姿を見るのもなんだか和む。
大学の敷地は広く、飲食店すら並んでいるような意味不明環境……というものでもなく、学生が学生相手に経営しているような店があり、要するに『寄るところ』に困らない。
喫茶店などもあるのだが、その中の高額商品であろうが遠慮せず手を出していくし、店員からハグを要求されれば『うにゃー!』と突撃である。
「……本当に私のことはどうでもいいんだな」
「まあ、わかり切っていたことでは?」
宗一郎は魔法学校となった沖野宮高校でも生徒会長を務められるほどのスペックがある人物であり、大学に入った後も、研究室を獲得している。教授かお前は。
そんな宗一郎に、彼が生徒会長を務めていた当時の副会長である古道英里が付き添っていた。
「はぁ、まあ椿からすれば、女子大生の育った体つきの方が良いということなのか……」
……一瞬、宗一郎の視線が英里の絶壁に移った。
それと同時に、鞄のダイレクトアタックが顔面にぶち当たる。
「ぐほあっ!」
「人の胸を見て何考えてるんですか?」
「別に失礼なことは考えていない……」
そういいつつも、『でも英里って、男の服普通に着れるよな……』とは考えている様子。
「もう一回ぶちあてましょうか?」
「勘弁してくれ」
ちなみに、鞄の直接攻撃をくらった宗一郎だが、傷跡は残っていない。
暴行を受けた証拠というものが消えたので弁護士も呼べません。
「とはいえ、椿さんにとってはこっちの方が良いというのも事実みたいですけどね」
椿はむぎゅー! と抱き着いては唸っている様子。
宗一郎なんぞ、この大学に来ることにした一つのきっかけに過ぎないのだ。
「まあ、いろいろ言ってましたし」
「ん?」
「椿さん。『女子高生と女子大生なら、女子高生の方が響きがいいですけど、女子大生の方が体つきは良いですよね』って言ってましたし」
「……」
エロ親父でも体内に飼っているんじゃないだろうな。
「しかし、これでこの大学も、椿の虜になったか」
「元からその雰囲気はありますけどね」
沖野宮高校の卒業生も、かなりの数がこの統合院大学に進学している。
要するに、沖野宮高校出身の『椿教の信者』が多数存在するということだ。
椿単体の写真や、椿を抱きしめ合っている写真を数多く所持しているものも多く、そりゃ布教だって進む。
「要するに……」
「面倒なことが起こりそうと考えている宗一郎よりも、学生の方がウェルカム意識が高い。となれば、どこに突撃するのかとなれば決まってます」
「だよね」
人間。自分を歓迎している場所に行くものだ。
椿だってそれは変わらない。
ただ、ある意味で椿の雰囲気に『呑まれない』からこそ、宗一郎は椿にとって『ついで』なのだ。
「はぁ、研究室に戻ろうか」
「そうですね。椿さんのフィーバータイムに、宗一郎は不必要です」
「……」
言い返せない宗一郎だが、一応、これでもすごい人なので、そっとしておくことにしよう。




