第千三百八話
「はははっ!すごいねえ秀星。『最高値移行』で、考えられる私のすべての要素を強化してきたのに、それを上回ってくるとは」
「んなもん単なる『自己分析』だろ。『真理』からは遠いさ」
「言ってくれる!」
圧倒的な出力という名の猛威。
その中では、空気の波長すらも二人の出力の間では安定せず、声は本来届かない。
ほぼ『テレパシー』と言える、物理的には関係のない次元で話をしている二人だが、双方、喜色満面だ。
圧倒的な出力を出しながらも『戦える』というのは、なかなかできることではない。
「ふぅ……しかし、単純にぶつけ合うのは飽きてきたな。私は、切り札を一つ切らせてもらおう」
「ん?」
「フフッ……私は清磨君から課題を出されてね。それをクリアして『最高値移行』が使えるようになったわけだが、ダンジョンマスターも、同様の力を持っているわけだ」
「そうだな」
具体的に言えば、俗に言う『カードダンジョン』と呼ばれたあのダンジョンたちは、その機能によって、マスターに『最高値移行』のスキルを与える。
ただし、清磨は細かく設定できるのに対して、カードダンジョンのマスターの場合は、『自分に』という、とてもシンプルな使い方しかできない。
「清磨君への集中した交渉ではなく、カードダンジョンの方も求めた理由。君に説明していなかったね」
「……一体、どんな力を得たんだ?」
「おや?忘れているのか。君にしては珍しい。別の星に行ってダンジョンをクリアした時、この『最高値移行』にポイントを注ぎ込んで強くなったボスがいたはずだよ?」
……秀星の頭に引っかかったやつがいた。
「確か、アイツが使っていたのは……」
「そう、『超越移行』だよ。だが……清磨君から貰った方のスキルで、ダンジョンマスターとしてのこのスキルを強化すると、面白いことができるというわけだ」
「なるほど、そういうことか」
やっと、マクロードの論点の過程を理解した秀星。
「人間がどれほど自分を超えたとしても、たどり着くことができない。想像することもできないモノが、現実としてこの世に存在している。まあ、要するにこういうことだ」
マクロードは、そのスキル名を宣言する。
「『超宇宙移行』」
姿は、変わらない。
魔力が内側から吹き荒れることもない。
むしろ、先ほどまでよりも小さくなった。
それほど安定した力なのか。
それとも……
「人が、人の形を保ったまま、『宇宙』という次元に達した時、どう見えるのかという話だよ」
……あまりにも次元が高すぎて、本当の表面しかとらえきれないから。なのか。
それは人によるだろう。
マクロードは、一瞬で秀星に向かって距離を詰める。
そのままの勢いで、剣を振り下ろす。
「……真面目にやれ」
秀星はプレシャスで剣を受け止めると、そのままマクロードの腹に蹴りを入れる。
そのまま壁まで吹っ飛んで激突した。
「がふっ!」
「お前が『宇宙』だろうと、俺は『真理』だ。お前が上じゃねえよ。調子に乗るな」
「ああ。あー。正直、テストでこれを使ったときに、圧倒的な強さに全能感あふれたのは事実だね。すまなかった」
原理や原則という『領域』に足を踏み入れているという観点で見れば、おそらく『真理』も『宇宙』もかわらない。
そういう意味では、秀星とマクロードは変わらないと言える。
ただそういう意味では……長きにわたって『真理』に触れた秀星の方が、理解度が高い。
……やろうと思えばそのまま決着をつけれたのではないかと思えるほどクリーンヒットした蹴りだったが、秀星としても、そんな攻撃で終わらせるつもりはないようだ。
「気持ちを切り替えろ。力を『手にいれただけ』で舞い上がるなんて、馬鹿なことはするな」
「そうだね……はぁ。地球に来てからめちゃくちゃ頑張ったのに、なんかあんまり意味がなかったような気がして萎えるよ全く」
「俺が相手だぞ。手段なんざ百や二百は持ってこい」
「なるほど、君が相手ならそれは暴論にはならないね。はぁ。でもやっぱり萎えるなぁ」
カードダンジョンへの取り組みは、その規模も大きかった。
それですら秀星に通じないとなれば、確かに萎える。
とはいえ……手段がそれだけではないことは、事実だろう。




