第千三百六話
「うーん……こちらもあまり決定打はないなぁ。やっぱり。これを使うべきなのかな?」
どこかで解説したかもしれないが、高次元に至った者の戦いというのは、往々にして『じゃんけん』になる。
そもそも、戦術というのは、『相手を倒す』ということを目的として開発されるもの。
戦いというのは、『より優れた方』が勝つのではなく、『より相手に強い方』が勝つ。
相手が次に使うのは何か、それに対して何を出せばいい?じゃあ相手はそれに対して何を出してくる?
そんな予想を次々と立てて攻撃を繰り出すわけだ。
しかし、じゃんけんのようなものだと分かっているのなら、『グーを出す』ときに、『チョキのような予備』を仕込むことで、カウンターを防げる。
もちろん、相手がそれを見越して、グーのような要素を裏に仕込んでいたとしても、『自分の表のグー』でそれらを丸ごと相殺できれば結果は変わらない。
お互いに何の裏もなく、『あいこ』を出し続ける場合は『より優れた方』が勝つ。
その場合は、『より優れた技術と講師』を用意できる方、要するに『金の量』で決まるという、何の面白みもない結果になる。
もちろん、それらの要素は考えていては間に合わない。
あらかじめ想定し、そしてそれに合わせて反復練習を積み重ねて体に仕込み、無意識でしっかり繰り出せるようにする。
……で、それらの作業を、秀星もマクロードもやっているわけで、言い換えれば『ずっとじゃんけんしてる』のだ。
それに飽きたというわけではないだろうが……
「闘魂戦術か」
「ああ。これを使えば、『より優れた方が勝つ』からね」
魔力は、安定を求める物質である。
それが、秀星とマクロードの共通の認識だが、雑な言い換えをすれば、『魔力がかかわる戦いにおいて、『安定』というキーワードはとても強い』ということになる。
そして、闘魂戦術……もっと言うと『魂のエネルギー』というのは、魔力に関する視点で見た時に、一番安定している。
安定感が抜群ということは弄りようがなく、弄りようがないということは、チョキにもパーにも分かれない。
よって、マクロードの提案はこういうことになる。
『グーとかパーとかチョキとか、飽きた。グーで殴り合おう』
要するにそういう事であり、安定性が抜群の魂のエネルギーを使う闘魂戦術を前にすれば、よほど頭をひねった攻撃でなければ、もう何の意味もない。
「……いいのか?魂のエネルギーは、『あの人』が、幽月を師匠として習った概念で、俺は『あの人』の最初で最後の弟子だぞ」
「剣術神祖の仕込みでは、闘魂戦術は習わない。だから、闘魂戦術に戦いを移した場合、君に有利という意味だろう?」
「まあ、それもあるが」
「フフッ……『どうせこうなる』と思って、鍛えてるさ」
「なるほど」
戦いだからと言って、『何でもアリ』にしてしまうと、『本当に膠着状態になってしまう』というのが、二人のそれ。
まだ、切り札を切っている感じはしないが、まだまだ、戦いのレベルが上がるという程度だろう。
問題なのは、闘魂戦術を完璧に使いこなせるのは幽月くらいのもので、秀星もマクロードもまだそこに至っていないという部分。
言い換えれば時間制限がある。
……まあ、殴り合いだというのなら、結局必要なのは体力である。
高次元の戦いだろうが、戦いである以上、本質は変わらない。




